紀元前のオリンピックにおいて競技は男性選手のみに限られていた。
近来にまで伝わる歴史資料に見られる選手の姿は裸のものが多いが、起源から裸を推奨していたのでは無く、もともとは服を着て競技に臨んでいた。
しかし、あるとき競技を前に下着を紛失した選手が裸で走って勝利したところ、それを真似して一様に皆が裸で競技するようになったという言い伝えがある。
オリンピックが開催されるようになる以前から裸で競技をする習慣のあったスパルタ人の影響であるとも言われているが諸説云々に確固たる証拠は無い。
いくら勝利の験を担いだにしてもいきなり素っ裸で挑もうとする気持ちは、同じスポーツマンとしても一切理解できない現代っ子の阿部は「どうしてこんな事態に!」と心が千切れそうだった。
一方、三橋は三橋で阿部にも勝るとも劣らず錯乱していた。
あまり野球以外に使った事の無い頭に、古代ギリシャにて鍛えられた男性の裸は当時の美意識にも沿って積極的に誇示され裸で勝利を得た選手を羨望し憧れはすれどアイテテテ…とは思われなかったのである、だとか小難しい知識は一切無い。
ただ、一直線に定まった視線はその昔のギリシャ人が観客や選手と同じものだったろう。
半勃ちで揺れている股間のモノに。
かく言う己自身も諸肌脱いで股間を晒しているわけだが、なけなしの羞恥心の欠片で赤面している阿部に対して三橋の頬の火照りは100%興奮以外の何ものでもなかった。
あれに触りたい。あれを握って、普段は彼が自分に施してくれるような愛撫を今度は自分が与える側になりたい。
「あ、阿部君!大丈夫、だよ!」
「大丈夫なわけあるか!後は全部俺がやってやるからお前は一生懸命寝転がってりゃいいんだ!」
じり、じり、と摺り足でフローリングの上を差し向かいのまま移動する。
着かず離れず円を描くように間合いを取り合う阿部と三橋は、まるでコロッセオで取っ組み合う寸前のレスリング選手のようだ。
薄氷の上を歩くような緊張と、灼熱の陽光に焼かれて焦げる寸前のような焦燥感。
一触即発で睨み合ったまま膠着した二人の間に、ぷうぅ〜ん、と耳障りな羽音が漂った。空気が読めない、いやある意味神懸り的に空気を読んだ蚊によってその場の凍りついた時間が動く。
「あっ!阿部君、あぶないっ!!」
「うわやめろなにをする(ry」
アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……!!!