「あべく……どこ」
腕はなんとか持ち上がったけど、宙に掴むものはなにもなくて、そのままぱたりと落ちた。
オレの転がった横にもう一組の布団があって、そこにタオルが起きっぱなしになっている。
これ、見たことある、ぞ。
阿部君のタオルだ。
赤いのはきっとオレの鼻血。
このまんまだとなかなか落ちなくなっちゃうだろうから、きっと阿部君はすぐに帰ってくる。
ほう、と息を吐いてじっと天井を見ていると襖がゆっくり開く音がした。
「あ、あべく」
今度こそ手を伸ばして掴もうとする。
宙でもがくみたいにして動いた手は阿部君から掴んで、ぎゅうと包みこんでくれた。
「血はもう止まってっけど、大丈夫か?」
「……ん」
首だけで小さく頷く。
大丈夫とか大丈夫じゃないとか、そんなこともわからないくらいには頭がぼんやりしている。
でも血は阿部君の言う通りもう止まってるみたいだから、へーきだと思う。
「ち、ちべた……」
「こんぐらいのがいいだろ、顔真っ赤じゃん」
オレの顔が赤いのは熱いから、だけじゃなくて、さっきしたえっちなことの余韻がまだ体に残ってるからだ。
阿部君がそんなことはみじんも感じさせないけろっとした顔で、極自然にオレの顔を覗きこむ。