胃袋三橋「んあーっ」

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32怠惰の雨音
予想に反した言葉。
唖然となる青年。
「オレ、ずっと、自分がおかしいって、そう思うことにして、た」
「お、おい……」
「でも、忘れようとしても、ぜんぜん、忘れられなくて」
少しばかり潤んだ瞳が、青年を見る。
青年は、少年に対して嫌われることをしたと、そう思い込んでいた。
そのせいで部屋に来ることがなくなったのだと、そう思っていた。
混乱した頭で、必死に状況を掴もうとしている。
汗が流れるのは、夏だからというわけではない。
こちらを見る少年の顔は、意を決しての告白だったのだろう。
もし、受け入れてくれなかったらと、不安で溢れていた。
「いいのか、俺で」
「い、いい!」
「……そか」
怖かった。触れるのが。
誰かの心の中に自分がいるのが、とてつもなく怖かった。
だから、なるべく誰にも関わずに生きてきた。
人間関係を築かずに暮らしていける方法も手に入れた。
なのに。
「俺もお前じゃないと、嫌かも」
震える手で、少年を抱き締める。
少年のことが、どうしようもないほどに、頭を離れない。