胃袋三橋「んあーっ」

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262夏の一日 ◆/xgoHxdPow
>>253     ここまで

「そんなに好きならさっさと阿部のところに戻れ!」
思わず大きな声を出してしまったおれは心の中で自分に舌打ちした。
こちらを向いた三橋の目はもう乾いている。
おれの戸惑いも偏見もすべて見透かすようなその視線を受け止めきれず、つい顔をそらした。
三橋は気にする風もなく淡々と続ける。
「…田島君、オレこわいんだ。願ったことが全部、叶う。行きたい大学に受かって、好きな人
 が 好きって、言ってくれた。どっかに落とし穴が、あるハズだって 考え出したら、それ
 で 頭がいっぱいになって、なにも手に付かなくなる……」
「それはお前が努力したり、お前をちゃんと見てくれる奴がいたってだけの話で、タナからボ
 タ餅が落ちてきたんじゃねーから心配すんな」
「…違う、ありえないよ…こんなこと」
「違わねーよ、なんでもかんでも運で片付けんな。お前が9分割でストライク入れられるのも
 ただのラッキーなのか!?違うだろ?お前ががんばったからだ。なんか文句あんのか?」
ケンカ腰でまくしたてたおれに驚いたのか、三橋は目を丸くしてそれからぷっと笑った。
「ありがとう…田島君」
おれの気持ちが伝わったとわかってほわんとうれしくなった。
「阿部のことだけどさ、さっきはああ言ったけど本音はちょっと違う。言いたいことはだいた
 いわかるよな?でもお前は自分の思うようにしたらいいよ」
「う…ん」
所詮おれがなんか言ったってそのうちなるようになるだろう。
アレだな、野球でも実生活でもバッテリー組んでんだぜ、なんてそのうちニコニコ顔の阿部に
言われっかもな。
うわ、今ものすげえサムい映像がちらついたよ!
おれはいずれ本当に見るかもしれない阿部の満面の笑みを頭から追いやった。