「お前がこの街に来て変われたように、俺もこの街に来て少し変われた」
「あ……あの、お、オレ……」
「これ以上のことはしないから安心しろ。今のは、ただの礼だ」
少年の顔から遠ざかり、青年はそのまま台所へ行ってしまった。
少年は顔を真赤にして、へなへなと座り込む。
青年はココアでも作ってやろうかと用意をしていたが、
部屋を出て行く騒がしい足音が聞こえて、軽く苦笑した。
「嫌われちったかな」
そう言うと、青年は一人分のココアを、作り始めた。
日差しが、どんどん強くなっていく。
少年とは、月に一回会うか会わないか。
否、あれ以降、少年は姿を見せていない。
青年は、少年のことを、時々思い出すことがある。
何に対しても無頓着だった青年が、少年にだけは興味が持続していた。
ただの興味ではない。それは、他ならない好意だった。
会いたいとは思わないが、顔を見たいと思うことはある。
そろそろ、夏の甲子園が始まる時期だ。
少年もそれに出場するのだろうかと、ぼんやり考える。
だが、雨男の自分が見に行っても、降られるだけ。
そう思って、青年は考えるのをやめた。