三橋「あん あっくんおっきい!」

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936怠惰の雨音
青年はゆっくりと、少年に近付いた。
嬉しそうにしている少年の目の前にまでやってくる。
「今日は、やけに元気がいいな」
思ったことを、口にしてしまった。
嫌みで言ったつもりはないが、青年はしまったと遅いながら口をつむいだ。
少年が気を悪くしたかと、青年も珍しく焦る。
だが少年は、ふひひと、恥ずかしそうに笑うだけだった。
「昨日、誕生日だった、から」
だから今日は元気なのかと、青年は納得する。
先程まで少年を窺い焦っていた自分に笑って、青年は少年を見る。
「おめでとさん」
何も用意していないが、祝福だけはしよう。
青年はそう思って、少年の頬を撫でた。
「ふひっ、へへ……」
少年は頬を赤くして、嬉しそうに笑う。
そんな少年を見て、青年も笑う。
「前より、明るくなったな。周りに恵まれるよ。お前は」
「う、うん。みんな、いい人」
「中学の時の奴等とは、勝ったのか?」
「勝った、よ!」
「そか」
青年は嬉しそうに、小さく笑う。
その笑顔は、どこか淋しさを含んでいた。