居留守を使う青年を無視するように、またドアが叩かれる。
しばらくすれば帰るだろうと、青年はページをめくる。
青年が思った通り、ドアを叩く音は止んだ。
「あの……いません、かー」
だが、ドアを叩くことをやめた代わりに青年を呼ぶ、その声は紛れもなくあの少年の声で。
この街でただ一人。青年の知り合いで、部屋を訪ねてくる可能性がある人物だった。
青年はタバコを消すと、窓を開けて、玄関に向かった。
ドアを開けると、ちょこんと立っている少年がいた。
「いた……」
ほっとして、笑顔を見せる。
青年も小さく笑って、少年を招き入れた。
少年は、過去に会った二度とは、違う顔をしている。
暗い表情は一切なく、ほんのり赤い顔は今まで見たどんな顔とも違っていて。
今日は何も悩んでいないのだと安心する。
ただ、いつもと違う少年に、青年は距離を感じてしまう。
靴を抜いで、とてとてと奥へ向かう少年。
まるで勝手知ったる我が家のように。
(今日は元気だな……)
青年は苦笑して、少年を追う。
少年は振り返り、青年を見る。
青年には、その顔が「早く早く」とせがんでいるように見えた。