阿部「行くぞ!1、2、3、ダアッー!」

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176fusianasan
※死にネタ注意

その日、オレは急いでいた。

珍しく三橋から呼び出しがあり、少し浮かれていたのかもしれない。
用件は詳しく聞かなかったけれど、なんにせよ三橋がオレを頼ってくれたのが嬉しかった。


大通りの交差点まで来て、雨で濡れた腕時計を見る。
(マズイな…少し、遅れたか?)
家を出た時は余裕があったはずなのに、今日は何故かすこぶる信号のタイミングが合わなかった。
多分この雨のせいだ。予報では降水確率10%だったのに、ここまで外れるのも久しぶりかもしれない。
こんなことなら、明日学校で聞くことにすればよかったと今更ながら思う。
底が抜けたような雨のせいで傘は役目を果たさないし、このままじゃ風邪をひくのも時間の問題だ。
アイツには家にいろと言ってあるから、後でメール入れておこうか。
そう思いかけた時だった。横断歩道の向こう側に薄茶色の髪が見えたのは。
どうやらあのバカはオレの言うことをちっとも理解していなかったらしい。
雨の日は肩が冷えるし車もスリップしやすいから無暗に出歩くなと言っただろうが。
「…ったく アホが!」
歩行者信号が青に変わると同時にオレは走り出した。
アスファルトにできた水たまりを蹴散らし、大量の水飛沫が周りに飛び散る。
靴の中は水浸しで踏みこむたびに気持ちの悪い音がしたが、そんなことに構っている暇はなかった。
とにかく一刻も早くアイツの体をタオルで拭いて、冷えた肩を温めてやらなければ。
オレはいつでもアイツのことで頭がいっぱいだった。

次の瞬間、強烈な光に包まれたのを覚えている。
それはまるで太陽のようで、目の前にあったアイツの影を完全に打ち消してしまった。
遠くの方で女の悲鳴とすさまじいブレーキ音がして、後れて全身に衝撃が走る。
最後の瞬間、振り向いたアイツの顔が霞んで見えた。

(ああ、泣くな…)
薄れゆく意識の中で、そんなことを考えていたように思う。