アフロ「息子をキズモノにするやつは許さん」

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623怠惰の雨音
やがて泣き止んで、少年は青年の肩に頭を預けた。
それだけ、心を許してくれているということか。
かける言葉は思い浮かばなくとも、自分が安らげる存在だということは、素直に嬉しかった。
たった二度、こうして顔を合わせ、話をしているだけなのに。
心の距離が近いことを喜ばしく思う反面、青年はそれが、少しだけ怖かった。
「菓子、食うか」
「……うん」
袋から、景品の菓子を出す。
楽しそうに、少年は菓子袋を開いていく。
泣いた赤子がもう笑った。
青年は安心して、少年の頭をまた、優しく撫でた。

それから、また月日が流れて、5月になる。
青年と少年はあれ以降、会うこともなく、それぞれの時間を過ごしていた。
会いたい。青年は、そう思うこともない。
青年は少年の家を知らないし、興味もなかった。
ただ成り行きで連れてきた少年と、再びやってきた少年と、少しばかり時を共にした。
ただそれだけだ。
タバコを吹かしながら、青年はギャンブル雑誌を読む。
その日暮らしが性分に合う。そんな彼だから、気にしないのだろう。
そんな彼の部屋のドアを、誰かが叩いた。
気付いて、青年は顔を上げるが、出ようとはしない。
この街に、自分を訪ねてくる知り合いはいない。
青年はそういったしがらみから、逃げ出してきたのだから。