モモカン好きな花井注意
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愛玩人博覧会が10月の第二土曜日から3日間開催される。
その為の準備でうちの7つある培養房はいっぱいだ。
9月の頭から1ヶ月は、まずどこの愛玩人工房も新規愛玩人の注文には取り掛かれない。
たまには予約も入るけど、この1ヶ月はメンテが主な仕事だ。
そんなこんなで、今日の予定は予約が1件だ。
約束の時間ピッタリにカランカランと、工房のドアが音を立てて、開いた。
「ちわーす」
一人の男が愛玩人を連れて入ってきた。
「こんにちは。お待ちしていました」
俺は立ち上がり、にこやかに挨拶をする。
坊主頭で結構良いガタイのこちらは花井さん。
連れてきた愛玩人はうちの工房の人気商品・モモエ型の女性タイプ。
いや、人気商品って言っても、ミハシ型が来るまで、シノオカ型とモモエ型しか見本作ってなかったし。
一応、他にも幾つか遺伝子はあるんだけど、トータルで売り物になるのが2個しか無かったとも言うが、そこらへんはオフレコで。
見るからにバレバレだけど気にすんな。
「どうぞっ!」
花井さんを応接ソファに案内すると、レンがタイミングを見計らってお茶を持ってくる。
折角だから、うちのマリアが接客すればいいんじゃないかって?
花井さんが、自分の愛玩人と同じ顔で違う性格って言うのが微妙に嫌みたいなんだよね。
まあ、あちらのモモエ型は23歳の年齢設定だから多少は違うのに。
花井さんはモモエ型を大変気に入っていて、今ので2代目です。
ちなみに初代の記憶は全部吸い出して、インストールしているから、初代とほぼ同一の存在だ。
ロボットと違って愛玩人は人間と同じく生身だから、脳もほとんどが生身だ。
生体脳は情報量が多過ぎて、一般家庭のコンピューターでは扱いきれない。
愛玩人の情報処理と保管も工房の主要な収入源なんだ。
ルリがモモエ型を作業室に案内してる間に、俺は花井さんと軽い挨拶程度の会話をする。
そこに、今のモモエ型で気になってる箇所が無いかと言うリサーチも入っている。
大抵は家庭用愛玩人のメンテはよっぽど具合が悪くなってから出ないと持ち込まない。