阿部「お前なんかちっさくなってね?」

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906fusianasan
三橋缶

泊めてもらっているお礼にとレンが飯を作ってくれることになった。
「料理なんか作れるのか?」
レンと出会ってまだ数日しかたっていないが、要領を得ない話し方やもたもたした動作はどうにも不器用でこいつにマトモな料理なんてできるのかと疑問に思った。
「カ、カレー作れ ますよー」
「あーカレーか」
レンはおどおどとそれでも少しは自信があるのか口元を緩ませる。
『カレー』と聞いてなるほどなと思った。
カレーなら市販のルーもある。ただ材料を煮るだけで何とかなる。そう失敗もないな。
「んじゃ買出しいくか」
財布をジーンズの後ろポケットに突っ込み部屋の鍵を探しているとレンからストップが出た。
「ひ、一人で行ける よ!」
お礼なのだから最初から最後まで自分一人でやりたいらしい。土地感もなく頼りなさげなレンに果たしてちゃんと買い物ができるのか道に迷ったりはしないか。
やはり俺は心配になったけれど、頑固に「大丈夫だ」と言い張るレンに根負けしてまかせることにした。考えてみれば”16歳”なんだ。買い物くらい行けるよな。
「道迷ったら下手に歩き回るなよ。わかんなくなったらすぐ電話するんだぞ」
何度も念を押す。玄関口で俺の財布と自分のケータイを握り締めたレンが「う、うん」と神妙に頷いた。

まるではじめてのおつかいだな。
意気揚揚と出かけていくレンの後姿をこそばゆく見送った。

レンが帰ったらすぐ調理にかかれるように流し台の洗い物を片付ける。ひも生活がすっかり板についた俺は皿洗いもお手の物だ。そういえば彼女のとこにくる前の俺ってどうしてたんだっけ。

お湯を沸かしコーヒーを入れリビングに戻る。
昼下がりの今時分はろくな番組がやっていない。何かDVDでも観ようかとTV台の下のラックを漁る。見慣れないディスクが紛れ込んでいるのに気がついた。プラケースにラベルが無造作に張ってある。ロゴも素っ気無いゴシックで『ミハシレンの16年間』と記してあった。