尚江「プ クク」

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524末路
 仕事の関係で俺はとある場所に来ていた。
 だが今回特筆すべくは仕事の内容でも、自分自身の事でもない。この街で聞いた奇妙な噂だ。
 夜な夜な琥珀の双眸を持つ獰猛な獣が現れ、その獣に出会ったが最後、破滅の末路を辿る……という子供騙しのチープな噂話。しかし、それについて言及しようとすると人々は皆、示し合わせたのように口をつぐんでしまう。
 この街には何かがある。悪い時ばかりやけに働く直感がそう告げていた。
 けれど、俺は噂話を追求しにここまでやって来た訳ではない。あくまでもビジネスのついでに立ち寄り、この話をたまたま耳にしたまでだ。
 だからこそ、ホテルのチェックインを済ませ、シャワールームで汗を流した後は、この噂話のことも綺麗さっぱり頭の中から消え去っていた。
 俺は特にやることも無く、ベッドに身を沈めた。だが、時計を見ると旅先で早々と寝てしまうにはまだ憚れる時間だった。
 少し逡巡し、電話を取る。旅先で“その手の商売”の女と一晩を過ごすのも、出張の醍醐味というものだろう。
 幸か不幸か、妻も子もいなければ恋人もいない独り身だ。事実が露見したところで大袈裟な事にはならない。
 俺はやたら饒舌に喋る電話口の男に女を一人注文し、今度はフロントにワインのルームサービスの注文をした。一人客だけれど、勿論グラスは二人分、だ。