俺「三橋っ!三橋っ!三橋ぃぃぃっ!!」

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625怠惰の雨音
少年の目尻には、涙が浮かんでいた。
出したいものを我慢していたせいか、それが涙になる。
「オレ、もう野球やらないつもりだった……のに」
水滴が、テーブルの上にも落ちる。
「やっぱり、やりたくてっ……」
嗚咽混じりになりながら、少年が吐き出す。
青年は茶化したりなどせずに真剣に、話を聞いていた。
何も言わないのは、気安い励ましが意味のないものだと知っているから。
特にこの少年は、他人の言葉より自分で出した答えでないと納得しないだろうと、青年は思った。
青年は、もう冷めてしまっていたココアを飲み干すと、カップを持って立ち上がる。
そして、少年の頭を優しく撫でた。
「またなんか嫌なことあったらここに来い。聞いてやるから」
聞くだけならできるから。
青年はそう言うと、台所の流し台にコップを置いた。
外ではまだ雨が、ザアアと音を鳴らし、降り続いている。

3月も終わり、季節は春になる。
あれから数週間ほど過ぎて、あれ以来少年は青年の部屋には来なかった。
青年が少年のことを忘れかけていた、そんな時。
景品がたんまり入った袋を抱え、アパートの階段を上る。
部屋の前には、あの時と同じように、膝を抱えた少年の姿があった。