三橋「ホントのナースは阿部君の血管に注射をさせる!」
「引っ越してきたばっかなんだが、今日から本格的に暮らそうとした矢先だぜ」
電車の窓に打ち付ける水滴を、恨めしそうに見たのを思い出す。
何かかある日は必ず、雨が降る。
青年には、そんなジンクスがあった。
「だからお詫びだ。無理矢理、手引っ張ってきた」
一歩間違えば、ただの誘拐かもしれない。
だが青年は悪びれもせず、その謝罪の言葉も申し訳なさを感じない。
「別に、いい。オレ、どっか行きたかった、から」
少年は、小さな声でぶつぶつと、そう言う。
「だから駅にいたのか。良かったなぁ。金払って電車乗んなくて」
「お金、持ってきてない……」
青年の言葉に少年がそう返すと、青年はプッと吹き出した。
「ククッ……そうか。だから座って。じゃあ、ゆっくりしてけ」
話を茶化しはしたが、青年は決して入り込んだところまで、訊きはしなかった。
やがて、どちらも喋ることなく、沈黙が訪れる。
少年のカップは、そろそろ中身がなくなりそうだった。
「オレ、野球やってて……」
「ん。さっき言ったな」
「でも、中学の時は、野球部のみんなから嫌われ、てて」
「ん」
少年が、話を始めた。
青年はただ、少年の話を聞いてることを示すように、相槌を打つ。