三橋「ホントのナースは阿部君の血管に注射をさせる!」

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669fusianasan
目を覚ますと、ぼんやりと古風なランプと木の天井が見えた。
「気がついたかね?」
顔を動かすと山小屋風の室内の隅から老人の声がした。
「ここは…?」
俺はボンヤリとした頭をハッキリさせようと首を左右に振った。
だが、頭の中は霞がかかったようでハッキリしない。
えーと…俺は…誰だっけ?どこに住んでて何ていう名だったっけ?
何も思い出せない自分に愕然とする。
俺は…俺は…誰なんだ?
「ひどい嵐じゃったのう、山道で倒れてたお前さんを発見した時はもうダメかと思ったが意識が戻ってよかった」
老人の言葉に俺はぼんやりとかすかな記憶を呼び覚ました。そうだ、確か俺は何か重大で大切な用事の為
嵐の中、家を出たのだった。だが、その用件も、家がどこで俺が誰なのか、肝心な事はまったく思い出せない。
「相当ひどい状態だったんじゃし、もう少しゆっくり眠りなさい。回復したら少しずつ頭の方も戻るじゃろうて」
混乱している俺に向かって老人はそう言う。俺もそれに頷いて目を閉じようとしたが喉がひりついて痛みが出てきた。
「すいませんが、水をもらえますか?」
かすれた声の俺の言葉に老人が頷くと、部屋の一隅に声をかけた。
「レン、この人にお水をあげなさい」
俺はそこでようやくもう1人この部屋に居る事に気づく。
「はい、どうぞ…」
立ち上がり、病人用の横呑みを俺に差し出したのはホワホワの茶色い髪をした大きな目の色白の少年だった。
レン、レンというのか。
俺はその少年の顔を見つめた。記憶にないはずなのに、何故か懐かしく感じる。


(つづくかどうかわからない)