喉が渇いた。
いや、正確に言えば最近ずっと渇いている。
もっと正確に言えば、喉だけじゃなく全身が渇いている。
「んっく、ん んんぅ …ごほ、ごほっ」
水道の蛇口からどばどばと水を溢れさせて、ゴクゴクとめいっぱいに飲んで、
勢い良く飲みすぎて咽せた。
ついでに昼ごはんの弁当だった唐揚げやら野菜炒めやらおにぎりやら
白桃のシロップ漬けやらの残骸が、何がなんだかわからない吐瀉物として
喉奥から吐き出されて水飲み場を汚した。
「げぼぉ、ぐふ …は はや く… はやく、俺くん に、会わなくちゃ」
ユニフォームの胸元を、布地を引き裂くかのように荒々しく引っ張って広げる。
汗ばんだ肌。心臓の少し上には真新しい傷が幾つもあり、赤黒く固まった血が
夕日のオレンジに照らされてなまなましく光る。
ナイフが通った痕の上から爪を立ててガリリと引っ掻けば、みるみるうちに
鮮血が吹き出し球児にしては白い肌とユニフォームをじわじわと汚した。
三橋は鈍色に濁った瞳を細め、ふひぃっと笑った。
あの人に会えば。俺君に会えば、もっと痛々しくてどうしようもない傷をまた付けてもらえる。
携帯を取り出すと、三橋はメール画面に表示された無機質な文字を確認してから
誰もいなくなったグラウンドを後にした。
その目も歩く後ろ姿の不思議に妖しい頼りなさも、麻薬に魅了された中毒者のようだった。
いや、実際にもう中毒だったのかもしれない。
死に向かうという、最高に背徳的で刺激的で、意味など何もなくて虚しい快楽の。