少年はぎこちなく頭を拭き始めた。
青年はトランクス一枚で脱衣場から出てきて、奥に向かう。
少年の元に帰ってくるとすでに着替えを終えており、手にはジャージの上下が持たれていた。
「これ脱衣場に置いとくから、さっさと着替えちまえ」
風邪引くと大変だから。そう付け加えて。
少年はもぞもぞと靴を脱いで、小走りで脱衣場に入っていく。
そんな少年を見て、青年は何を思うでもなく台所に向かった。
やかんに水を注ぎ、火をつける。
ついでに、煙草にも火をつける。
ズボンのポケットに入れていたせいか、
取り出した時には雨に濡れ、すっかりしけっていた。
しかし青年はそれを気にすることもなく、口付けた。
美味くもない煙を吹けば、それが天井に向かっていく。
「あ、あの……」
ふと見ると、ぶかぶかのジャージを着た少年が、廊下にちょこんと立っていた。
「どうした? 入ってこいよ」
「…………野球やってるから、タバコ、嫌、です」
顔は言い辛そうにしているのに、案外はっきりという少年。
青年は少しだけ笑みを浮かべると、くわえていた煙草を流し台にプッと吹いて捨てた。
やかんが、徐々に湯気を吹き出していく。
青年は火を止めて、戸棚を開く。
出てきたのは、某成果会社のココア粉末。
「煙草は吸うくせにコーヒーは飲めねぇんだわ。俺」
背を向けているため、まるで独り言のように聞こえる。
少年も、返事はしなかった。