阿部「よお、レンレン」

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564怠惰の雨音
降り止まない雨。
それはまだ春の訪れを見せない三月の末。
青年は少ない荷物を片手に、電車を降りた。
「また雨……か」
疎ましく呟くと、青年は改札を出て、出口へと向かう。
わかっていたはずなのに、傘は持っては来なかった。
道路に打ち付ける雨の雫。
雨足は予想以上に強そうで、青年は溜息をつく。
ふと視線を下にずらすと、雨宿りをしているのか、膝を抱え座り込んでいる少年がいた。
「風邪、引くぞ」
他人など興味がなかったはずなのに。
鬱陶しい雨のせいなのか、青年は少年に声をかける。
少年は、わずかに顔を上げて、青年を見た。
虚ろな瞳。暗い表情。
「訳あり、か」
少年からの返事はない。
青年は、手を差し出していた。
それに気付き、ビクッと少年の体が震える。
少年が拒絶するような、そんな反応をしても、青年は手を少年に向けて差し出したまま。
少年はゆっくりと、青年にはっきりと見えるまで、顔を上げた。
そして、恐る恐る、青年の手を握る。
二人は雨の中を、走った。