今年、童貞のまま30を迎えてしまった俺は遂に魔法使いになってしまった。
魔法使いは掟で家を出て独り立ちしなければいけない。
ニートだった俺には厳しすぎる試練だ。
俺は家族に見守られ、箒に跨って子供の頃から過ごしてきた街を旅立った。
魔法使いになったといっても、使える魔法は大してない。
箒に乗って空を飛べること、それだけだ。
大した魔法が使えない代わりに、魔法使い免除というものもある。
それは、おいおい説明するとしよう。
箒は免許も道交法もいらない。
飛行機やヘリにぶつかって死んでも文句は言えないけどな。
「西浦……ここにするか」
田んぼや畑が広がってる景色。
遠くには繁華街らしきものも見え、何故だが俺は惹かれてしまった。
何の変哲もない街に、降り立つ。
「もしかして魔法使いかな?」
不意に後ろから声をかけられて、ビクッと振り返った。
見ると、鼻眼鏡みたいな顔のおっさんが、トンボでグラウンドをならしていた。
「この街に魔法使いはいますか?」
俺がそう尋ねると、鼻眼鏡のおっさんは薄く笑って首を振った。