三橋「い、磯野カツオ君!」

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287春 花見て笑う
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捜査本部と銘打たれた小部屋はまだ煌々と明かりが灯っていた。
若い刑事はゲンナリと溜息を付いて書類を机に置き、もう1人の刑事は椅子にへたり込んだ。
怪訝な顔をしてちょび髭上司はモニターから2人の刑事を覗き込み言った。
「お疲れのご様子ですね、で伺えますかな」
「ええ 今迄亡くなっているのは徒党を組んでいる連中の内の5人と言う事でした 良い所の坊ちゃん嬢ちゃんの学校ですから
不良と言ってもそう悪さはしていないみたいなんですがね」
「あと、これはどうなんでしょう?一応これから聞いた事まとめますが」
なんでも書いて下さいよ、声と共にこぽこぽとお湯を注ぐ音がしてくる。
若い刑事はすぐさま俺がやりますと駆け寄って行ったが上司から右手だけでやんわりと断られた。
「つるんでいるグループの内の2人が酷く怯えてましてね、ある生徒から呪い殺されると」
「ほうほう、穏やかじゃありませんねえ」挽いた豆から煎れたコーヒーの香りが小部屋に充満する。
旨いコーヒーは有難いがこういうのは酷く据わりが悪いと歳がいった方の刑事は思った。
「どんな事したか迄は口を割っちゃあくれなかったんですがね、ま、かつて苛め抜いた生徒が1人いたと」
「その生徒の呪いだって言うんですよ、有り得ないですよ」若い刑事がそれに続く。
「思い込みは避けましょう 真実を遠ざけます どうして呪いなんぞと?」刑事2人の前に湯気の立つカップが置かれた。
「はぁ、その生徒はかつてあの学校に在席していたんですが、今は違うんです 
昨年の4月 高等部編入せずに他校に行ったとかで」
「その生徒の足取りは掴んでいますか」
「ええ、丁度、理事長の話も聞けましたので それとなく聞いたんですが生徒は今埼玉の県立高校に通っているそうです」
「全生徒を把握している理事長とは凄いですね」
「す、すみません その生徒は、理事長のお孫さんだったんですよ 部活で野球をしているそうで延々聞かされましてね」
「その理事長がえらい野球好きでしてね、自分の所でもかなり力を入れているとか
孫の方も高校に入ってからはソコソコいい成績を収めているとか 高校球児じゃあワザワザこっちに来る暇なんて有りませんし」
冷蔵庫から出したての生クリームがコーヒーの表面でトグロを巻いている。
「・・・・どうして、編入しなかったんでしょうねぇ 理事長の孫だなんて言ったら好き放題でしょうに」
歳のいった方の刑事はミミズののたくった手帳を閉じた。コーヒーを手元に寄せて湯気を吸い込む。贅沢な香りだ。
「苛め、理事長は知らない様でしたよ」
「そうでしょうね 明日、午後から埼玉に行ってね 午前中は明日の朝指示を出します」上司は再びキーボードを叩き始めた。
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