三橋「い、磯野カツオ君!」

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277fusianasan
>>273

天井を見上げていた首が、ゆるり、とこちらを向く。
茫洋とした眼差しにはおよそ感情の起伏など感じられない。あるのは、差し迫った性欲だけ。余計なものの一切剥がれ落ちた顔。俺も同じ顔をしているのだ、おそらく。
「して、ください。好きに。好きなように…っ」
視界が、ぐわん、と揺らいだ。
尖った肩の骨と、ぺらぺらな痩躯に不似合いな歪に偏った筋肉に爪をかける。
握り潰すつもりで、痣になっても構わない気で肉を掴んだ指に、跳ね返ってくる弾力はすべすべした肌と違って硬く引き締まっていた。それでも、自分と比べれば比較にならないほど細っこい。頼りない腕。
なのに、思いの外しっかりした力で抱き返してくるのが堪らなかった。
唯々諾々と好きなように抱かせるだけの腕なら、簡単に振り解いておしまいにできるのに。
腰が抜けそうに気持ちがいい。濡れてジリジリ擦れる肌がむず痒い。縺れ合った手足が温かい。余計なしがらみが削げ落ちて、頭の中がまっしろになる。突っ込んで、突っ込まれて、そう言う簡単な生き物におちていく。
閉ざした瞼の奥に、真っ暗闇がシンと沁みた。
こめかみから髪を撫でる指が、些細な愛撫がいじらしい。こんなにも充足した落魄なら、悪くない。


________ここまで。おやすみはし