阿部「三橋!コンプライアンスってしってっか?」

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76fusianasan
「三橋! コンプライアンスってしってっか?」
学校からの帰り道、阿部君がこんなことを言い出した。
「コンプ…な なに?」
オレが首をかしげると阿部君は得意そうな顔になってつづけた。
「コンプリートでもごんぶとでもねーぞ。いいか、お前はコンプライアンスまみれだから克服してかなきゃいけない」
「オレ、まみれ、てる?」
「ああ、まみれまみれのまみ蔵だ」
自転車を押しながら「お前はいい投手なんだからもっと自信もてよ」などとすらすら話す阿部君に変だなあと思いつつも、いい投手と言われたのがすごく嬉しかった。
「三橋はすげーぞー!」
「そ、そう かな」
「ああ、自信持てよ! コンプライアンスなんて吹っ飛ばせ!」
あれ、もしかして。ここでオレはハタと気がついた。コンプレックスのことを阿部君は言ってないか。もしかして阿部君はコンプライアンスとコンプレックスと勘違いしてないか?
「阿部君、あの」
「なんだよ」
「な、なんでも ないよ」
「変な奴!」
自信満々の阿部君の顔を見ているとオレの方が間違っているような気がした。阿部君がコンプライアンスって言うんだから、きっとコンプライアンスはコンプレックスの上等な言い方なんだ。
「オレ 頑張る から! コンプライアンスなんてふっ飛ばす ぞ!」
そう言うと阿部君がニカッとすごい笑顔でオレの手の平を掴んだ。阿部君の体温がオレに伝わる。嬉しい。
「よし! いいぞ! その調子だ!」
「うん! コンプライアンスのバカ!」
「バイバイコンプライアンス!」
オレと阿部君のコンプライアンスコールが夜の街路樹を揺らしている。

オレは阿部君の笑顔が大好きだ。コンプライアンスを吹き飛ばすように頑張ろうと思った。