>>397 「や、めて ください…、榛名 サン」
三橋が顔色を伺うように見てくるその目はいじめられることに慣れている、卑下た視線だ。
被害者でいれば色々楽だろうな。でも俺はそういう態度のやつが一番嫌いで、
「ムカツクんだよっ!」
「ぅ、あああっっ!!」
スパイクは履き替えたが、靴底で思い切り右腕の付け根を蹴り上げられて、
三橋のでかい三白眼が更に大きく見開かれた。
反射的に右腕を庇って、這いつくばるイモムシのように体を折り曲げている。
あー、こいつも俺と同類か。
同じ投手同士ってのは弱点晒して歩いてるようなもんだぜ。
案の定、三橋の指の爪は、深爪といっても過言ではないほど短く整えられていた。
わかるわかる、爪伸びてると指先の感覚が不器用になった感じがして気持ち悪い。
だから俺も爪切りは携帯品の一つだった。
「みーはーしー?爪、切ってやろうか?」
「え…、オレ 爪は、毎日切って ま、す」
そんなこと見れば分かっている。俺はかまわず三橋の腕を組み敷くように固定して
中指に愛用の爪きりを食い込ませた。包丁を作っている老舗メーカーのもので切れ味は
市販のものの比ではない。
「深爪してても、少しずつ剥いていくと、爪って結構はがれるらしいぜぇ?」
「ひっ……!いやだっ!やめて ください!」
俺の体の下で、必死で三橋が逃げ出そうとするが、このチビと俺の体格差で
抵抗が叶うわけもない。