シュン「オレ好きなカンジだよ」

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553代理・偽りの螺旋・水谷の場合
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ようやく残暑が去った。
10月の第二土曜日から3日間、全国愛玩人博覧会がある。
各地から愛玩人工房の主と、愛玩人を求める人々が集うのだ。
その為の準備が9月に入るとすぐに始まる。
大体、愛玩人工房が忙しいのは長期休み前、長期休み中、新年度に合わせて年明け以降辺りだ。
自分が暇になる時期前、暇な時期と、新生活が始まる頃に愛玩人を求めるからな。
だもんで、暇になるこの時期に博覧会がある。
うちの工房も勿論、出展する。
うちには7つの培養房があり、同じ遺伝子の愛玩人だったら1つの房で2人育てられる。
会場に前日入りで、培養房から出た愛玩人の教育に1週間、培養するのに1ヶ月。
逆算した締切日に合わせて、作業が進む。
親方が遺伝子の微調整を繰り返し、俺がそれを試算していく。
そして、仕込みをする。最も緊張し、細心の注意を払う作業だ。
そんな訳でつい一昨日まで、うちの工房は徹底的に忙しかった。
全ての培養房が埋まった様は壮観だ。
俺達は快い疲れに身を委ね、昨日は臨時休業となった。

そして今日。全ての培養房が埋まってるから1ヶ月はほぼ開店休業状態じゃないかって?
いいや、だからと言って全く客が来ないわけじゃない。
新規の客が入らない分、顧客がメンテナンスに来るんだ。
今日もこれから大口の客が入る。
近所で愛玩人カフェをやっているオーナーが店の子達のメンテに連れて来る。
「やあこんにちは!」
軽い感じで挨拶をしてくるこの男がオーナーの水谷さんだ。
俺とうちの愛玩人達が愛想よく出迎える。
水谷さんの所の愛玩人のほとんどはうちの愛玩人じゃない。
でも、近所だからってなんやかんやとうちを利用してくれるんだ。本当にありがとうございます。

何店舗も持っている水谷さんは40人近い人数の愛玩人を抱えている。
これだけの人数ともなると、流石に1日では済まない。
予定は2日で予備日が1日見ている。