三橋「前夜祭なのに俺君をうちに 呼んじゃった」

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377偽りの螺旋・巣山の場合 代理
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雨が降っている。
俺はルリと差し向かいでルリお手製のチーズケーキを食べていた。
愛玩人にとって家事スキルは基本技能だ。
チヨやマリアは勿論、ルリやレンだっていっぱしに家事全般をこなす。
ただ4人もいると全員が家事をやらなくてもどうにかなるから、ルリの最近の暇潰しはケーキ作りらしい。
マリアは親方の手伝い、チヨは作業室の整理、レンは散歩に行ってる。
まったく、営業時間中は外に出るなって言ってるのに。
夏休み最中の最近は学生の客が多い。
もっとも学生が気軽に買えるほど安い物じゃないんだけどな、愛玩人は。
ここしばらくはなんやかんやで冷やかしに来る客の相手で翻弄されていた。
そんなわけで疲れが溜まっていたが、降水確率が朝から80%なので、今日は冷やかしも2組しかきていない。
久々のゆっくりした時間に、俺がルリのケーキを味わってると、ドアがカランコロンと優しい音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ!」
口の中が埋まっていた俺を放ってルリが声を掛ける。
挨拶を返す客にルリは素早く近寄って雨で濡れた傘を受け取り、シュンッと乾燥扇を当てて、濡れた体を乾かす。
俺は慌てて飲み込んで、立ち上がった。
うん、結構いい服だ。これは冷やかしじゃなく客だ。短い髪に少しでかい鼻の男に声を掛ける。
「いらっしゃいませ。本日はどのような愛玩人をお求めでしょうか?」
「ああ、うん。あー、ひとまず、ここにある愛玩人全員のオッパイ、見せて貰えるかな?」
いきなりオッパイかよ。いや分かるよ、俺も大好きだ。
「はい。ルリ!マリアとチヨを呼んできな」
「はいっ」
にこやかに答えて優雅に歩き出す。
俺は自己紹介した後、椅子を進めて、カタログを机に表示する。
「今うちに見本がある女性体はこの3種類ですが、他にもこのような娘もございます」
うちで見本まで作ってるのはチヨとマリアの2体に、1年ぽっきりの見本のルリとレンだけだけど、この工房で著作権を持ってる遺伝子は他にも幾つかある。
ただ単品で売り物になるにはどれも弱いから、部品取り程度の意味合いだが、今回の客にはちょうどいいだろう。
そんな俺の思惑に、巣山と名乗った客は首を振る。
「やっぱり、実物を見て確認しないと、ちょっとしたことで大違いだからね」