阿倍「よいでおじゃるか、よいでおじゃるか」

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228早朝のアニバーサリー
>>178

アンカSS注意、ピョアッピョアにしてやんよ注意、一周年前夜



あの日から、丁度一年目の季節が巡り巡ってやってきた。
西浦に入学して続けるかどうか迷っていた野球部の新歓の日、
目の前で信じられないコントロールを見せ付けられて
俺は三橋の投げるチームで野球を続けたい、上を目指したいと強く意識した。

出会いの春、どう三橋を扱っていいのかわからなかった。
少しずつ輪郭を固めていくチームに気付いた時は、眩しい夏の終わりを意味する試合だった。
秋、俺と三橋は少しだけ、枯葉の積もるようなゆるやかな速度で歩み寄った。
結局一年で大きく関係が改善し、無二の親友なんてものになれたわけじゃないが
冬を越え、二回目の春をこのグラウンドで迎える日には、お互いに何枚か皮を剥いて話している。

「き、今日で ちょうど、一年目 だね!」
下級生を迎え入れるというのに、うちのエースは相変わらずおどおどとしている。
「入学からか?」
何を意味しているのか尋ねても、またひし形にひらいた口をパクパクさせて、あー…焦っている。
「ちが、くてっ!オレたちが、始めてここでキャッチボールした時、から だ!」
三橋にしては珍しくプンスカとでも擬音をたてそうなほど懸命に食い付いてきた。

229早朝のアニバーサリー:2008/06/05(木) 07:52:15
>>228


「あぁ…そっか、もう一年も経ったのか。」
早朝練習は育ち盛りの俺たちにとって、決して楽なものではなかったが部員一同。
特に俺と三橋は「早朝組おはよっ!」とチームメイトたちに称されるほど
毎朝一番を争う速さでこのグラウンドに来て準備に精を出した。
365日、こいつのことを一番に考えて過ごすなんてあの夏の一過性のものだろうと
そう軽く見ていたのに、結局俺たち早朝組み二人は
今日もまた露と緑の匂いを含んだ晴れやかな朝を迎えている。

丸一年、改めて言葉にしてみると感慨深いまでに重みのある日々だった。
一年前のこの日何をしていたかは曖昧な記憶の霞に覆われている。
けれど俺が、一日も欠かすことなく三橋と過ごした事実は
振り返ると歩いた場所が道のようになって刻まれている。

春物のトレンチと薄手のマフラーで防寒した三橋が
俺の顔色を伺うこともなくゆっくりと、袖口に隠れていた右手を差し出してきた。
「…え?」
向かい合った俺の前にすっと伸ばされた右腕。
「あ …握手、だよ?」
ニカっという、滅多に見せない満面の笑顔に俺はこんもりと盛られた
マウンドの土の上で、ぎゅっと強く三橋の、このチームを背負ってきてくれた右手を握った。
ありがとな、三橋。
お前がいたからこの一年間上を目指し続けられた。

230早朝のアニバーサリー:2008/06/05(木) 07:53:26
>>229

完全に明ける前の、やわらかな早朝の朝日が新しい日々を示唆するかのようだ。
「一人じゃオレ、ず ずっとダメピのまま だった、けど、一緒だから…頑張れたんだ!」
スライダーのタコ、シュートのタコ。
投球練習でガチガチになった指先の感触が伝わってくる。
柔らかく苦労を知らない手なんかより、何百倍も大切なものだという想いが溢れて
不覚にも少しだけ涙ぐんでしまった。
赤らんだ目元を三橋から隠しながら握手を続ける。
俺がぎゅっと握ると三橋も負けずと力を入れてきた。

友情とも愛情とも説明の付かない、もっと脆く確かなものを俺は今掴んでいる。
「あの…、っと…こ、こ、こーッ…!」
コココって何だよ三橋。まるで鶏じゃねーか。
思わず吹き出しながらも緊張がとけて、慌てふためく三橋の言葉を補充してやる。
「これからもまた、とりあえず一年よろしくな。」
「うんっ!!」
再び三橋が、屈託の一欠けらもない笑顔をたたえていた。
「オ レ、でよければ、これからも…お願いし ます…。」
重ねられたままの三橋の手が、ぬくもりを帯びてきた。
あぁ、こんなことが以前にあったような気もするが、いつだっただろうか。

再び、夏がはじまる。
あの、終わることのないとこしえで在るかのような、夏。





***
推敲できなかった
今度こそおやすみミハラッシュ