>>81 優しい手、優しい指、縦も横も全然厚みの違う薄っぺらなオレの身体を大事にしてくれる、だから男同士どうやったって暴力的になるセックスがこんなに怖くない、オレには都合がいいばっかりで、でも、だけど。
そうじゃないセックスも欲しい。
ちょっとだけ離れた唇が外気に触れてジン…と痺れる。毛先を弄んでいた指が髪の中に潜って、おでことおでこがこつんとぶつかる。
薄暗い室内を照らすランプフェードの灯りが、見上げた先でどことなく茫洋とした真っ黒な眼を舐める。
すうっ、と細められた瞼が震えて、口元の笑みが…消えた。
次の瞬間ギシッと毛根が軋んで、頭皮から引き剥がされるんじゃ無いかってくらいきつく握られた。
「ひぎっ…っ!いぁあ、ああっ、あーーっ」
ギュッと丸まって太い胴体を挟み込んでいた爪先に、その瞬間、甲に筋が浮くほど力んだ。
弓形に勃起した形のままビュルビュルッと勢い良くぶちまけられた熱い飛沫が腹の上を打った。四方八方に飛び散って、頬や顎まで濡らす。
自分の股座を見て惚けたまま、反射的に唇に散った雫を舐める。味蕾をしょっぱい苦味がチクチク刺した。
湿った熱い湯気と、鼻腔にこびりつく独特の臭み。鳩尾から胸まで盛大に飛び散ったそれは、乾いたそばから痒みを伴って皮膚を疼かせる。頼りない照明の下でもあきらかな、夥しい量の黄色い染みがシーツに広がった。
ぐにゅっ
腸内で剛直したままのペニスが蠢いて、ズルリと半ばまで引きずり出された。
浅くて緩い抽挿で中を抉っていた亀頭が、不意に失禁に汚れたまま勃起しているオレのチンコの真裏を押し上げる。先端から、ぷくり、と染み出た尿ともがまん汁ともつかない雫を、和さんの濡れた指が掬う。
指がゆっくりと厚い唇に含まれるのを、隙間からチラリと覗いた白い歯がその関節を噛むのを、オレはじっと見ていた。
ああ、あの、歯で、噛んでほしい。
味わったキスの、あの血の味を思い出してゴクリと喉が鳴った。
俯いていた顔を上げて、和さんがオレを見る。それは、虚ろな、何も装わない、冷えた眼だった。
初めてセックスした夜のような。
足首を掴んだ手はもう欠片も優しくなんてなかった。骨が折れそうなくらい強い力で抱き潰され、引き寄せられて「して、ください。好きに。好きなように…っ」ってそれだけ言うのがやっとだった。
オレたちは繰り返してるんだ。あの寒い日の最初のあやまちを。何度も、何度も。
鏡の中で互いに縋り付き合ってセックスに没頭する姿。そこにはさっきまで取り繕っていた恋人同士みたいな、そんな甘ったるい雰囲気は無かった。涙が、溢れる。止まらない。でもいいんだ。今は。だって、和さん、オレのことなんかちっとも見て無いから。
欲しかったものは手に入った。望んだ形じゃなかったけど。
贅沢、言っちゃ駄目、なんだ。
________ここまで