*ブラジャー注意
それは何度めかのおっぱいごっこが終わったときのことだ。
部室でオレのブラジャーのホックを外してくれながら阿部君が口を開いた。
「これさ、つけたまま試合出ないか?」
「え」
阿部君がオレのブラジャーの肩紐を引っ張った。
「これ」
「これ?」
阿部君の視線の先にあるのはブラジャーだ。
「何も公式戦って訳じゃない。オレにだってそれくらいの分別はある。練習試合でいいんだ」
「こ、高野連 は」
「高野連に恥じるようなことは何もない」
外し終わったブラジャーを握り締めて阿部君が言う。阿部君がそう言うのならきっとそれは正しい。
だけどブラジャーをつけての投球でうまく投げられるだろうか。
相手チームにふざけていると思われないだろうか。
阿部君もオレも無言で部室の中は蛍光灯のジジジジっていう虫の羽ばたきみたいな音が響いてる。
シャツのボタンを留めながら答えに困っていると阿部君がボタン留めを手伝ってくれた。
「一度でいいから見たいんだよ」
阿部君の声がぼそりとオレの手の甲に落ちた。
いつも大きな声でキッパリと話す阿部君なのにその声はとても弱々しくて、阿部君にそんな声を出させてしまっているオレは嫌なやつだと思った。
「ブラジャーをつけて投げるお前の勇姿をさ。もちろんオレもつける」
「あ、阿部君 も?」
「あったりまえじゃんか。バッテリーだぞ」
「バ、バッテリー!」
阿部君は本当に当たり前って顔をして『バッテリー』って言ってくれる。
何てことないって顔で言ってくれる。
だけどオレは最高に嬉しくなる。西浦に来て本当に良かった。阿部君と会えて本当に良かった。
そう思ったら自然と言葉が出ていた。
「阿部君! オ、オレつける」