>>248 「三橋っ!」
なんとか唇を開かせて水を飲ませようと鼻をつまむ。
それでも三橋はいやいやと首を振るばかりだった。
ここがこんなわけのわからない場所じゃなけりゃオレだってこんなもん飲ませたかないけど、ここは無理やりにでも飲ませるしかない。
「う、うっぐ、あ」
先に濁った水を口に含んでそれを三橋に落ち着けた。
鼻も摘んで唇も塞いでやれば少しずつだけどそれでも空気を求めて口が開き始める。
そこに唾液も混じり合った水を流し込んだ。
吐き出されたら困るからそのまま唇は塞いだまま、ごくりと喉が動くのを待つ。
三橋が飲み込んだのを確認してから顔を離すと、呆然と三橋がオレを見ていた。
あとはもうやけくそになって、何度も同じ動きの繰り返しで三橋に水を飲ませた。
そのついででいくらかオレの喉も潤ったけど、もう十分だろうと思う頃にはお互いすっかり息が荒くなっていた。
「く、くち、じゃりじゃり、する……」
「は、三橋……喋れるようになったのか」
どさりと倒れこむと三橋が眉をしかめて、もごもごと苦しそうに口元を動かすのが見えた。
「気持ち悪いだろうけど、しばらくは我慢しろ」
「う、うん……ご、ごめんなさい」
三橋がごめんなさいと謝った意味がオレにはよくわからなかった。
こいつはもともとの性格が性格だから深く考えるだけ無駄なんだろうけど、ひょっとしたらさっき水を飲むのを嫌がったことだろうか。
と、そこまできて、自分がどうやって三橋に水を飲ませたかに気付いた。
でもこんな状況だし、人工呼吸とかとたいして変わんないだろうと思って首を振る。
三橋は不思議そうにそんなオレの姿を眺めていた。
「もうちょっとしたらまた歩くぞ。とりあえず暗くなる前にもっとちゃんと落ち着ける場所探そう」
「わ、わかった」
三橋が膝のうえで拳を作ってぎゅっと握ってみせた。
それを上から握ってやると、小さく三橋が笑う。
こいつが笑ってくれているうちはまだまだ大丈夫な気がした。
陽射しが直接当たらない森の中で幾らか休憩したのが良かったのか、その後はだいぶ体が楽になった。
あんなでも一応水分を取ったからっていうのもあるかもしれない。
方向なんでわからなかったけどできるだけ真っ直ぐを意識して、三橋の手を引いてひたすら歩く。
森の端に出た時、砂浜から見える空はもう赤くなりはじめていた。