阿部「レン!」

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842冷たい部屋
>>835   ※ホラー注意   ここまで

長い長い時間が経ったような気がするけど、実際にはそれほどでもなかったのかもしれない。
紐の繊維一本ずつを噛み切るようなもどかしい苦闘の果てに、ようやくオレの両手は自由に
なった。
急いでまだ縛られている方の足も解いて転がるように台から降りる。
足に力が入らなくてひんやりした床にへたり込んでしまった。
脱がされていた衣服を直し、薄ぼんやりとしか見えない室内に目を凝らして出口を探す。
扉のようなところがあったのでオレはそろそろと這ってそこまで移動した。
(鍵がかけられていたらどうしよう…)
どきどきしながら取っ手を下げると抵抗なく開いてオレはほっとした。
重い内開きの扉の中から這い出ると、そこは真っ暗な廊下だった。
部屋の中は温度が上がったとはいえまだ寒かったけど、廊下に出るともう寒さは感じなかっ
た。
あそこからは出られたけど、ここからどう行けばいいんだろう。
暗闇は不安を何倍にも増強させる。
最初に通されたリビングはどっちなんだ?
いや、もしも眠っている間に全然別の場所に運ばれていたのだったとしたら…?
いけない、しっかりしろ。高校時代の野球部の監督も「弱気はダメッ!」って言ってたじゃ
ないか。
オレはお父さんやお母さん、幼馴染みの修ちゃん、それから共に頑張ったチームメイトたち
の顔を思い浮かべて勇気を奮い起した。
とにかく進んでみよう。
オレは手探りで廊下を這い途中にあったいくつかのドアをそうっと開けて覗いたが,誰もい
る気配はなく、書斎や物置みたいな部屋ばかりだった。
どの部屋も灯りはついていなかったが、窓があって外の様子が少し見えた。
多分日は落ちていないと思うが、雨がひどくて異様に暗い。
時々近くで雷が鳴って、あの部屋で聞いた地響きの正体がやっとわかった。
そういえば聞き流していた天気予報で、局地的な雷雨がどうとか言っていたような気がする。
廊下の突き当たりにガラスの嵌ったドアがあったけど、その向こうがぼんやり明るい。
オレは期待に胸を躍らせて慎重に開ける。
その時背後から何かを引き摺るような音が微かに聞こえてきた。