三橋「まだ、オレの誕生日だ よー」

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289fusianasan
 クーパーズタウンに、その建物はある。
 アメリカ野球殿堂博物館――。
 5月17日。
 俺と三橋は、この、メジャーおよび世界の野球の、歴史と偉業の集積地たる建物の入り口をくぐった。
 
「三橋の誕生日のことだが」
 一通りの書類に目を通し終えてから、俺は傍らに控える中村へ声をかけた。
「南洋の小島を一つ贈ろうと思うが」
「三橋君に使う暇があるとは思えませんが」
 眼鏡のブリッジを人差し指で押し上げ、こちらを見る中村の目は冷ややかだ。
「実のないプレゼントは双方に無意味です。ご再考を」
「言うようになった。じゃあ、これはどうだ」
 俺は一枚の容姿を中村の手元に滑らせる。
「野球殿堂博物館の一日貸切ですか。よくオーケイが出ましたね」
「交渉したのはお前だろう。辣腕家め」
「こちらの方が喜ぶでしょう。それに経済的です」
「では、決まりだな」
 手を打って俺は立ち上がる。
 館内で目を輝かす三橋の様子を思い浮かべ、俺は口元を綻ばせた。

 三橋はウィンドーに張り付いて中々動こうとしない。そんな姿を眺めているだけでも俺は至極満足だった。
 ダブルデイ・フィールドへ行きたいと三橋が言ったとき、俺は携帯を取りだし、中村に繋いだ。
「オペレーション開始だ。準備はいいか」
「シミュレーションは完璧です」
 携帯を切り、俺は三橋の後を追ってゆっくりと歩く。