阿部「あれは最高のボール」

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遠目だったからいまいち自信ないけどなんとなく見覚えがある後姿だったようなないような。
ああ、そっか、コンビニの制服じゃなくて私服だったからわかんなかったけどさっきのはあれだ。
えーと、あの、えーと、あれ？　垂れ目の名前なんだっけ。
三橋が呼んでいたのを聞いた記憶があるはずなのに思い出せない。
とにかくその男がコンビニの裏手の方へと回っていくのが見えた。
なぜかそれに気付いたのは俺だけみたいで、というか全員コンビニの表の方に釘付け。
なんつっても表側は扉、窓と全部透けてるから、中の状況が丸見えだ。
警察や野次馬がちょっと邪魔だし状況が状況だから全くいい眺めではないけど。
中がどうなっているか当然知っているだろうに、平然と裏に回っていった垂れ目も気になるが一番気になるのは目の前の三橋だ。
状況はどうにもこうにも動かないまま、犯人は興奮状態のまま三橋を羽交い絞めにしている。
って、あれ、ちょっとおいおいおい。
周囲のざわめきが急に色濃くなる。
当たり前だ。人質が立て篭もっている店の中に平然と人が一人あらわれてみせたのだから。
警察も咄嗟に対応ができないようで、混乱している。
いっそこのまま突入でもしてしまうのだろうかとはらはら見守る時間はあっという間に終わった。
垂れ目は犯人に臆することなくずかずか近づくとヘルメットを被ったそいつの頭を金属バットでがきーん。
俺のいるとこまでは聞こえなかったけど多分すげえ音がしたんだと思う。
一発で犯人はぐらついて、その拍子に三橋が抜け出す。
腰が抜けているみたいでべちゃりとみっともなく床のうえに四つん這いになった。
かと思うと今度は信じられない早さでかさかさとレジのあるカウンターの方へと逃げてしまった。
ゴキブリ並の早さだ。
犯人はぐらついたものの致命傷には至らなかったらしく、まあヘルメット効果だろう多分。
手に持った銃が垂れ目へと向けられたが、それよりもバットが再び振り下ろされるほうが早く。
あとはもうなにが起こったのかよくわからなかった。
人質がいなくなったからか、一気に警察が店内に突入、でそのまま犯人確保の流れ。
えーあのちょっと展開が早すぎてついてけないんですけど、俺。
このままここにいても人の波に揉まれるだけっぽいので、こそこそとコンビニの裏手に移動してみる。
事情聴取？　ってやつだろうか。警察らしき人と三橋、それに垂れ目がいた。垂れ目はまだ犯人をぶん殴った金属バットを片手に引き摺ったままでいる。
物騒だなーと思って眺めているとしばらくしてから警察の人は二人をそのままにしてどっかに行ってしまった。