俺ら「ブサイクでもいい、いやらしく育って欲しい」

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615四畳半のウサギ 3
>>603.>>610.>>612   ※エロなし注意

三橋の降りる駅が近づき、俺はつられるように立ち上がった。
「…阿部君」
「ん?」
「お願いがあるんだけど、いいかな?」
「なんだ?」
「…オレ、すごく キンチョウしてるんだ。だから、キンチョウしないおまじない して
 ください…」
「おまじない?」
「オ、オレと握手、して」
「握手?そんなんで緊張治るのか?いいよ」
おずおずと差し出された右手をぎゅっと握りしめる。
多分三橋に対するいろいろな想いをも込めて。
俺の手も冷たかったけど、三橋の手はもっと冷たかった。
だけど手を握り合っているうちにほんの少し手のひらの中心で熱が生まれる。
その熱を分け合い、お互いの手が自然に離れた。
左方向にGがかかり、軽い衝撃と共に電車が止まる。
シューッと音を立ててドアが開くと三橋はホームに降り立った。
他の客が出口を目指して足早に去ってしまっても、三橋はそのまま立っていた。
そして、俺の顔を見ながら口を動かす。
── ありがとう、あべくん。
間違っているかもしれないが、そう言ったように俺には思えた。
電車が動きはじめ、三橋が遠くなる。
胸のあたりで小さく手を振る三橋に胸騒ぎがしてドアにへばりつき目を凝らしたけど、電
車がスピードを上げるとその姿はあっという間に見えなくなった。