>>394 風呂場での三橋の下着紛失事件はしょうもない幕切れを見せた。
場をうまく離れたキャプテンが怪しいだの、坊主のくせにいっちょまえにリンスをする巣山がおかしいだの色々な意見がとびかった。どれもこれも頷ける理由に思えた。
オレなりの推理は沈黙の田島がキーだった。
すなわち田島が何故沈黙なのか、ということだ。田島の口の中にブツがあるに違いない。
「口、開けてくれるかな」
オレは笑顔を崩さないまま田島の肩を叩いた。
田島が無言で振り向く。その無言が何よりの証拠だ。予想が確信にかわり『謎は解けたよ! ワトソンくん!』オレの中にいる銭形が人差し指をたて微笑んだ。
と思ったのも束の間、「なんで?」田島が平然と口を開く。あれれ? おかしいぞ。
QED、証明終わり!と格好良く締めるつもりだったのに間違っていたようだ。
「いやあ、何かあの、ほら! フリスクいる?」
「ちょーだい」
苦し紛れにいつもポケットに忍ばせているフリスクを取り出すと、田島は訝ることもなく大きく口を開けた。あんぐりと開かれた田島の口内を見渡すものの丈夫そうな歯が並んでいるだけで、三橋の下着は見当たらない。
さらさらと田島の口の中にフリスクを落としていると「オレもちょーだい」「オレもオレも」の声があがり、しばしオレはフリスク係りとなった。
「あったぞー!」
そうこうしているうちに背後で阿部のでかい声が響いた。
「あったの?」
「おーあったあった」
「どこに」
三橋の衣服を入れていた籠の下の棚に落ちていたそうだ。
一番下に置いておいた下着が籠の網目を擦り抜けて下の段に到達したらしい。
阿部が三橋の下着を手に、おそらくこうであろうという軌跡を示す。阿部の証明はオレの推理よりもよほど現実的でそのうえ物証もある。おそらくこれが真実だ。
「め、めーわくかけ、て っした…!」
三橋がピョコンと頭を下げた。
そしてともかく振り出しに戻る。