翼「チンバルサンバ!!」

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449ふたりひとり
複雑で変な模様の魔方陣は見れば見るほど本当に怪しげで、こんなのでちゃんとできるのかなって最初にあった不安も、むしろその怪しさがこれ本物じゃないのかなって思わせてくる。
書き写している間もなんだか怖くて手がぷるぷると震えた。
もちろん複雑怪奇な模様自体が写すのが難しい、っていうのもある。
オレの手がぷるぷるしていたせいでところどころ線が震えてるというあまり誉められた出来ではない魔方陣。
なんとか本にある通りのその模様を書き写し、完成した頃にはもう空が暗くなっていた。
書き始めた頃はまだ夕方で、空も赤い色をしていたのに。
ぐう、とお腹がなって、思わず時計を見るともうかなり遅い時間だった。
今夜はお父さんもお母さんも帰ってこないから、晩御飯は冷蔵庫にあるものを温めて食べなさいって言われてたんだった。
どうしよう、先に下に降りてご飯食べてこようかな、って思ったけど、なんとなく中断しちゃうのも駄目な気がする。
お腹は減ってたけど一番時間のかかりそうな部分は終わってたし、本に書いてある通りの「おまじない」を試してみることにした。
魔方陣、っていうとほんと胡散臭げなんだけど、本に書いてある通りの模様を書いた紙の中央にこっそり部室のごみ箱から拾った阿部君の爪を一欠けら落とす。
こんなの阿部君に知られたら気持ち悪がられるよね、って思ったけど今のオレは藁にもすがる思いだった。
「おまじない」の効果は好きな人が夢に出てきてくれる、でいいのかな。
なんだか古びた本で文字の部分が掠れてたりするんだけど多分そんな感じだと思う。
紙をそっと持ち上げて、そっとそこにオレの唾液を垂らした。
えっとこれからどうするんだっけ。
そうだ、紙丸めてくしゃくしゃにして、それから灰皿の上。
ぽい、と丸めた固まりを一階からこっそり持ってきた灰皿の上に乗っける。
うちは誰もタバコ吸わないからあとでちゃんと元通り棚の奥にしまうのを忘れないようにしよう。
それでコンビニで買ってきた百円ライターを使って紙に火をつける。
ただの紙なのに思ってたより勢いよく引火して、しゅぼっと音がなった。
あっという間に黒くなって、皿の上で灰になっていく紙。
「……あれ」
やっぱりなにも起こらない。
あれ、と思って本を覗き込んで最後の手順がすっぽり抜けていることに気付いた。