阿部「三橋、このレモン味のカキ氷うめーぞ」

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33fusianasan
http://set.bbspink.com/test/read.cgi/eromog2/1207504550/898
少し腫れてしまった瞼をゆっくりと上下させながら、オレはベッドに寝転んでまんじゅうを眺めていた。
三橋もシュンも律儀なヤツだ。オレは、二人が早く別れてしまえばいいと思っているような最低の人間なのに。
手の中の小さなまんじゅうを腹の上に乗せ、ぼんやりと天井を見上げる。
思えば、三橋は昔からいいやつだった。
投手らしいわがままと投げることへの固執はあったが、努力を苦にせず、進んでできるヤツだった。
中学時代のトラウマで口下手ではあったけどそれだって付き合いが長くなるにつれて少しはマシになった。
高校三年間――正確には、二年と5ヶ月。
バッテリーとして共に歩んできた日々はかけがえのないもので、とても大切な時間だった。
オレにとって、野球と三橋はイコールで繋げても良いくらい大事だった。あの頃も、今も三橋を大切に思っている。
でも今は三橋と顔を合わせるのが気まずいし、三橋はシュンのところへ行ってしまった。
どうしてだろう。オレたちにだって、色づいた思い出があったはずなのに。

いつかの放課後、ミーティングを終えて帰る前に忘れ物をしたことに気づいて教室へ戻ったことがあった。
駐輪場まで一緒に行っていた三橋は、特に用事もないからとついてきてくれた。
先に帰っていいと言いながら、内心ではとても嬉しかったのを今でも覚えている。
人気のない廊下を抜けて踏み込んだ教室は夕暮れの日差しで黄色く染まっていた。
静かな教室で机の中を探り、カバンの中へ放り込む。
さあ、帰るぞ。振り返って言おうとしたオレの目に、夕日を浴びて仄明るく染まる三橋の姿が飛び込んだ。
バッテリーとしていくつもの困難を乗り越えてきた。一方的に怒鳴ることもあった。三橋が言い返したこともあった。
それでもオレたちは、あの日のあの瞬間もバッテリーで、二人一緒にいて、三橋はオレを見てくれていた。
立ち尽くしてしまったオレに、三橋はまぶしさに目を細めながら「どうか した?」と言った。
いつの間にカバンから手を離していたのか、近づいたのか、分からない。
気がつけばオレは三橋にキスしていた。両手で頬を掬い、舌をねじ込んで口内を犯す。
一瞬固まっていた三橋もオレに舌を吸われると狼狽して身をよじった。だが、それを執拗に追いかけて唾液を絡める。
逃げようとする体を抱きしめたが抵抗は続き、そのまま揉み合いになって押し倒してしまった。
体を起こして四つんばいになったオレに組み敷かれた三橋の顔は、色濃い絶望に塗り込められていた。

――なんてことはなかったが、ともかく三橋といい雰囲気になるチャンスはあったはずだ。
どこで失敗したんだろう。ずーっと一緒にいたのは本当のことなのに。
腹の上に乗せていたまんじゅうの薄い紙包みを開けて、ぱくんと口に放り込んだ。
黄身餡のまろやかな甘さが口に広がり、三橋みたいだなとしょうもないことを考えていた。