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<一行空けてください>
「ヒィーッ!!」
笛吹きケトルのような悲鳴をあげ三橋が走っていく。
非常な光景もこうも続けば単なる日常に思えてくる。感覚が麻痺してくる。
だからオレはもう驚かなかった。
三橋の悲鳴を耳の端でとらえつつもグラウンドを均す手を休めない。
他のチームメイトも同様らしく三橋をちらりと目で追いながらも特に気にせず各自作業を続行している。モモカンから指示を受けたらしくマネージャーがひとり三橋の後を追う。
あれから数日たち怯える三橋は朝練前の見慣れたひとコマになっていた。
「あれ、田島?」
「田島も追いかけてる?」
西広と巣山の声に顔をあげベンチを見る。いま到着したらしい田島が三橋の後を追うのが見えた。乱暴に放り投げたようでスポーツバッグがベンチに引っ繰り返り転がっていた。
「刺激すんなって言ってんのに」
泉が眉を寄せ吐き捨てる。
珍しいと思った。ここ何日かの田島は怯える三橋を遠目に苦々しい面持ちで見守っていたからだ。普段は無遠慮の田島だが三橋をこれ以上怯えさせないように気を使って接しているようだった。今になってあんな風に追いかけまわす田島が意外だった。
「ちょっと見てくる」
泉も不穏な空気を感じたらしくベンチへ走っていく。
そのまま黙って後姿を見送った。きっと何もないんだろう。オレはもう驚かない。
<終わり>