阿部「ホーホケッケッキョ」

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497fusianasan
嘘つき占い師がこの路地裏のような寂れた街にやってきた。
寒い日も毎日、薄暗い街灯の下にいるのを俺は通り過ぎながら目にしていた。
だが一ヶ月もしない内に、奴を物珍し気に振り返る人もいなくなり
まるで空気のように、妖しいマントをはためかせるだけの存在となった。
奴の占いは当たった試しがないらしい。

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その日、俺は面倒臭い飲み会につきあわされ、やっと地元の駅に着いたのは
深夜1時を過ぎる頃だった。ふらつく足取りで いつもの帰り道を歩いていた時、
見慣れた紫マントをかぶった奴が そこに座って居た。
(まさかこんな遅くまで活動しているとは思わなかったな。)
時には嘘つきと罵られ、誰からも声を掛けてもらえなくなった占い師が
ふいに不憫に感じられて、酒の力で多少浮かれていた俺は、暇つぶしに
俯いて水晶玉を眺めているソイツに話しかけてみることにした。
「ども、こんばんわー。」
酒臭さを隠しもせず腰を曲げて顔を近付けると、驚いた占い師は
弾かれたように顔を上げて俺を見る。
瞬間、何故だか胸の奥がキュウッとしめつけられた。
(案外若い…いや、こいつはどう見ても未成年だろ!)
大きな釣り目、こじんまりした鼻、驚いて開いたままの口、柔らかそうな癖っ毛。

 俺は 一目惚れという 人生で初めての経験したのだ――――・・・・