「あ、阿部君ホントにやるの……?」
「やるに決まってんだろ。ここまで用意しといて手の込んだ四月馬鹿だとでも思ってんじゃねえだろうな」
「な、ないない……お、思ってない! で、す」
でもオレこんな格好やだなってぼそりと呟くと阿部君がそれを目敏く聞きつけて
なぜかオレが使う為に用意されたはずの女王様の鞭でばしいっと床を叩いた。
「ほら本に書いてある通りやれよ」
「う、うう……」
阿部君が買ってきたSM用の縄でまず阿部君の二の腕を縛っていく。
事前に頭に叩き込まれたはずなのにいちいちページを捲っていかないと
次の動作がわからなくてどうしても時間がかかった。
既にオレののろのろとした動作に阿部君がいらついているのが丸わかりだったけど
おとなしく言われた通りに頑張るしかできない。
なんでオレがこんなことしなくちゃいけないんだろうって最初は思ったけど、
阿部君が言うにはホントのエスになるにはエムの気持ちも知ってなきゃいけないってことらしくて、
要は紙一重でエスもエムも表裏一体だからたまには逆になりきってみようってことだった。
これでお前もオレもホントのエスとエムの関係になれるぞ! って言われて
うっかり頷いてしまったけど今は後悔の嵐が吹き荒れるばかり。
もうやめようよ阿部君、って言えば根っからエスっ気のある阿部君は
後から性的な意味でオレを苛めてくるに決まってるから逆らえない。
でも普段はエムなオレに女王様の役をやれなんてやっぱり無理があると思う。
女王様の服だって胸のとこがぶかぶかでスースーするし。