※早朝過疎にコソーリ投下 昆虫注意 くれぐれも昆虫注意
蝉の声は聞こえなくなったがまだまだ気温は暑い。
まだ朝と言うのに憚らない時間帯だったが既に気温は30℃近くなった。
駅から降りて本数の少ないバスを乗り継ぐ為に木陰に入って涼を取る。
全員が入れる程木陰は広くも無く、三橋は日差しの強さを頭の先と背中にチリチリと感じていた。
秋大会の最中ではあるが次の試合までは2週間、合宿しましょうとモモカンからの提案が出された。
モモカンの事だから、この時期に敢えて合宿をするのは何らかの意味があるのだろうと
さして反論も無かったが、皆とある一点だけを気に掛けていた。
「あー 阿部は?」泉は木陰から半分はみ出た三橋をぐいと影に入るように寄せて言った。
「なんかねー、今日は親父さんの仕事がこの近くなんだって で、ここで落ち合うことになってんの」
栄口は首に巻いたタオルをほぐして額の汗を拭う。
「ここまで車か、ま、まだ本調子じゃないもんなぁ」
道路の向かいにある雑貨屋でアイスを探っている連中を眺めながら沖が溜息をついた。
「出るだなんてガセだと良いんだけど、俺嫌だなぁ」
「あるわきゃ無いって、そんな事」泉はカラカラと笑って返す。三橋は一瞬びくくっとすると口を開いた。
「オ オレ あ有ると 思う」 え、なんで?と沖が縮こまる。
「三橋、それは持論? 聞いた話? 体験談?」泉はほぼ反射的に聞き返した。
「あ た体験談 だと 思う」そこは“思う”じゃ無いだろと泉は小声で突っ込んだ。
「うぉっ そいつはすげえ 聞かして聞かして」一足早く雑貨屋から戻ってきた田島が加わる。
「折角だから夜しようぜ、夜 苦手な奴は外せばいいし、な」駆け込んできた花井が話を止めに入った。
「花井も苦手だモンねー 俺楽しみぃ」 てめッ水谷っ と花井が振り向くと
バスと一緒に黒いピックアップトラックが小さなロータリーに入ってきた。
ピックアップトラックから滑るように阿部が降りてきて車は直ぐにロータリーを後にした。
「わり、現場近いらしいんだけどさ時間間違えたとかで急いでて・・・バス乗ろうぜ」
「おう、皆乗りはぐるなよ」人気の無いバスの階段をわいわい騒ぎながら乗り込んでいった。
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「大学の先輩の紹介で破格の値段でいい所教えて貰ったの 隣接したグラウンドも使わせて貰えるって言うし」
監督は頬を紅潮させて有り過ぎる胸を張って言った。
「ただ ね」
「なんっすか? また何かボランティアですか?」
花井は剃り残しが気になるのか、頭頂部より後ろ右方向斜め下の1点を先程からグリグリと弄りながら言った。
ニヤニヤした水谷が花井の手を払うと、花井はきょとんと後ろを振り向き、わりいと言って向き直った。
無意識に弄っていたらしい。
「出るって話なのよ」監督の幾分抑えた声に皆一斉にざわついた。沖に至っては若干涙目になっていた。
「はあっ?何がっすか?」花井は自分を奮い立たせる為にも敢えて声を荒げていった。
「うーん、詳しいことは分らないんだけどね、出るって・・・で、借り手が付かないんで格安でどうぞって」
監督、そりゃないっしょー メンバーの声がハモる。監督は両手のひらを押し返すジェスチャーをしながら続けた。
「死んだ人がいるわけじゃないし、怪我人も出ていないそうなのよ この世の中でそんな非科学的な事ってありえないと思わない?」
「しかし、事実こうやって皆怯えているし」
「夜はクタクタになってそれどころじゃ無く直ぐに寝てしまうわよ 昨日、ちょっと下見に行って来たけど新しくて綺麗な所だったわよ」
「実際支障が出てからじゃあ」
「心の弱さがね、ありもしない物を生み出すの ありもしない姿 ありもしない呻き声・・・
メンタルを鍛えるには丁度良いかもね 決まりっ」
「ええーっ 勘弁してください」「俺、健康上の理由で」「あー、俺は宗教の戒律で」
許しませんっ と監督が一括した後ミーティングは終了した。
「なー、阿部は参加出来んの?」まだ練習に参加出来る程膝の回復していない阿部に田島は声をかけた。
「来週位からボチボチって医者には言われてんだ、次の試合に向けてのメニューに目通しておきたいしな
練習参加にゃ微妙だが付いていくよ」
「そっか、ま、あんまり無理すんなよ」
ベンチの方が騒がしいので目を向けるとまだ数人が固まってざわついていた。
「花井ぃ、やっぱそれヤバイよ、後ろから見ても剃り残しも蚊に刺された跡も無いよ」笑いながら水谷が煽っていた。
「だからっつって妖怪アンテナじゃねぇっっっっっっっ 今から脅かすんじゃねー バカッッッ」
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バスには10分も乗っていなかったと思う。バス停から5分坂を下りたところに合宿所はあった。
モモカンの探してきた宿舎は春に行った時の“元民家”に比べると確かに数段素晴らしかった。
見た感じ、建って5年は経っていないだろう。
ここのところ、夜中になると雨、昼には快晴と、まるで熱帯のスコールのような気候が連日続いていた。
その所為か水はけが悪くて建物の周りがぬかるんでいたが、グラウンドが使えれば問題は無い。
グラウンドはバス通りを挟んで逆の坂を上がった場所なので水が溜まる様な事は無いだろう。
各々荷物を広い玄関に下ろすとその場でジャージに着替え始めた。
「モモカンとシガポは後から来るんだったよな」巣山はサマージャケットを丁寧にたたんでバッグに入れた。
「うん、シガポはしのーかを途中で拾って買出ししてから来るって モモカンも、もう来るんじゃないか?」
花井は藁半紙のスケジュール表を音を立てて開いて覗き込んだ。
「ここ、暗いなー・・・えー、荷物置いたら先ずグラウンド整備だ で、軽く流した後昼、昼の後この宿舎の掃除・・」
「なー、整備と掃除の手間考えたらワザワザ合宿する事なくねー?」田島が花井の言葉を遮る。
花井は少しムッとして言葉を返す。
「ここのグラウンド、ナイター設備があるんだよ、
グラウンド整備とここの掃除を条件にナイター代ロハなんだってモモカンが言ってた」
「あ、なーる ナイター使えるのは貴重だわ」栄口はバッグの中からチームの帽子を取り出しながら続けた。
「なんかさぁ、ここ湿気っぽくないか?」そういえばそうだよな、低い土地だからじゃね?花井は頭を掻いた。
「阿部はどうする?グラウンドの整備できそうか?」
「あー、俺ここの空気入れ替えてからそっちに向かうわ」
「助かる、1人で大丈夫か?」
「平気じゃね?子供じゃねえし」
「足元覚束無いだろう、しのーかとシガポが戻るまで三橋付いてな お前仕事増やすなよ」
「う だ大丈夫だ よ」
「じゃあ、阿部と三橋を除いた皆はグラウンドに向かうぞ」
そう言うと皆外に出て行った。
三橋と阿部は荷物を2階に運び入れ始めた。
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2階の雨戸を開けて空気を入れ替えた後2人は1階にやってきた。
広い玄関の奥はミーティング室兼食堂の様な作りになっていて
良くは見えなかったがテーブルと椅子は片付けられている様だった。
その更に奥は調理室で両方とも雨戸が閉められているらしく中は暗かった。
出入り口にあるスイッチを入れたが電気は点かなかった。
「チッ 後でモモカンからブレーカーの場所教えて貰わないとな」
「雨戸 開けられるか な」暗い部屋を覗き込むと2階と同じ湿って据えた臭いがした。
「いけんじゃね? 入ってみるか」
阿部が先頭になって部屋に入っていく。部屋の真ん中位迄来た時に阿部が不意に足を滑らせた。
後ろに倒れこんだ為に、三橋を巻き込んで丁度三橋に馬乗りになる様な格好となった。
「うわ 悪ぃ お前 怪我なかったか?」三橋は小声で平気と言った後続けた。
「阿部君、せ 背中で何かプチって言った」
暗くてよく分らないが確かに背中に何か小さなものを潰した感触があった。
「はぁ? 何それ 潰した? ゴキブリじゃねえだろうなぁ」
「うえええ いやだよう 背中に潰れたゴキブリなんてええええ」
「お俺だってゴキブリはゴメンだ ましてや潰れているのなんて」
三橋は背中を床から離そうと少しだけ弓なりに仰け反った。
部屋の隅になにやら沢山の細い糸の様なものが揺らめいているのが目に入った。
「あ あ? 何だあれ ここ風吹いていないよ ね」
「窓開けてねえからな・・・って風って何だよ」
三橋は馬乗りになっていた阿部をすり抜け床に這いつくばる様にその揺らめいているものに目を向けた。
「うん 草みたいなのがゆらゆら揺れている 風じゃないなら何だろう」
「ゆらゆらって はぁ?」
「目が慣れて大分見えてきたよ・・・わあ 何だろう ゴキブリじゃないね 綺麗だなぁ」
「綺麗って お前 き れ は・・・がぁ」阿部は言葉を失うと同時に硬直した。
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今迄暗くて見えていなかったので気が付かなかったのだが、部屋一面その細い糸の様なもので埋め尽くされていた。
丁度、阿部と三橋の周辺だけぽっかりと糸の様なものは無く床の柄が見えていた。
その糸の様なものはめいめい勝手に揺らめいていて何か話し合っている様にも見える。
細かい造作は見えないがそれは確かにゴキブリではなかった。
その背中は奇妙に曲がり小さくまとまっていたし、後ろ足がやけに長く折りたたまれていて、まるでバッタの様だった。
糸の様に見えたのは彼らの触覚で、部屋には数え切れない程居る彼らが一様に阿部と三橋の方を向いていた。
「阿部君? どうしたの? 腕そんな風に掴んじゃ痛いよ」三橋の声に反応して彼らの何頭かが跳ねてこちらに寄ってくる。
「う・・う・・・え・・・」
「阿部君 阿部君 手が冷たいよ どうしたの だ 大丈夫」
又更に幾頭もが跳ねてこちらに寄ってくるのを三橋の背中越しに阿部は見てしまった。
「だ い じょう ぶ ない・・・」阿部は絞るように声を出した。まるで別人の様に掠れて小さな声だった。
「え え!! 阿部君 うわぁ ね 立てる?」
三橋の呼びかけに阿部は首を振った。
暗くてよく表情は伺えないが、かなり切迫している状況がうかがえる。
掴まれた腕を通して心拍数が早まっているのが分る。それに反して手は汗ばみドンドン冷たくなっている。
「む無理? ええ どうしよう、この暗がりじゃあ阿部君担ぐの危ないし オ オレ助け呼んでくる」
阿部は再び首を振った。三橋の声に反応して彼らはドンドン近寄ってくる。
「嫌だって そんな事言われても ずーっとここにいる訳にはいかないよ」
ギュウと強く掴まれて三橋はヒッと声を上げた。阿部はひたすら首を横に振っている。
「ね、す直ぐ、直ぐ戻るから ね」
三橋は腕を掴んでいる阿部の指をほぐしにかかった。
阿部は抵抗を図ったがこわばって思う様に抵抗できずに指を払われてしまった。
「み 皆 よ 呼んで来るから」そう言って三橋は2〜3頭踏み潰してそれを気にも留めず部屋を出て行った。
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三橋は走って外に出た。
(確か皆上のグラウンドにいるんだよね)石のタイルで出来た階段に足を掛けると宿舎から声が聞こえてきた。
「うわぁーあ ふんべらーっ」
(た、大変 急がなくちゃ・・・・・ふんべら?)階段を登りきり道路を渡って直ぐの所にグラウンドはあった。
モモカンと皆が佇んで何やら話をしていた。
「困ったわねぇ、まさかこんなねぇ」
「今、しのーかさんと志賀先生に殺虫剤買いに行って貰っていますから」
栄口は今来たばかりのモモカンに現状を説明していた。向こうのベンチでは花井と沖が顔にタオルを掛けて座っている。
何があったのだろうか、三橋は田島の肩を突付いた。
「あー三橋? 便所コオロギだよ 用具入れに大量に居てさ、花井と沖がのびちゃったんだ」
「半端ない数さ、直ぐに用具入れ閉めて殺虫剤待ち 整備も中断って訳」泉が続く。
「知ってる?アレさ、音に向かって寄って来るの 雑食性で虫や小動物も食べるんだけど、音がすると食べ物だと思うらしいんだ」
西広の言葉にやにわ三橋は青ざめる。
「あー、それで花井と沖が飛び掛られたんだぁ」「ふえー、潰しちまえばいいだろうに」
「あの大量なのを全部潰すのかよ」「アレだけ沢山だとゴミ袋も居るよね」
各々の喋りに三橋は気後れしたが何とか口を開いた。
「う え あ 阿部君が大変 だ から 来て 皆来てぇ」
>>343>>344>>345>>346>>347>>348 ※マダラカマドウマ注意 エロなし注意 wiki菅へ 改レス毎に改行お願いします
宿舎では先ず虫が平気な三橋と田島で阿部を部屋から連れ出す所から始まった。
一度は皆で部屋に入ったがワラワラと床を埋め尽くす虫を見て皆逃げ出してしまった。
潰すと掃除が後々面倒なので足で払いながら部屋の奥に進むと丸まって虫に集(たか)られた阿部がいた。
2人で何とか担ぎ出すと2階の風通しのいい所に阿部を座らせた。阿部はコメカミの所を齧られていて少し血が滲んでいた。
阿部は暫くベソをかきながら「三橋のバカ」と繰り返し言っていたが、小一時間もすると普通に悪態を付き始めたので
皆、ほっと胸をなでおろした。
携帯でシガポに連絡し殺虫剤を更に倍買って来て貰って、用具入れと宿舎を消毒、虫の除去及び清掃を行い
合宿自体は続行する事となった。
流石に、阿部は怪我の事もあるし、これ以上この場所に居させるのも酷だという事で家に連絡を取って
その日の内に帰宅する事となった。
「出るってまさかこれの事とはねー」モモカンの言葉に花井は泣きながら返した。
「今度合宿所決める時はリサーチ徹底してお願いします、たのんます」
>>343>>344>>345>>346>>347>>348>>349 ※マダラカマドウマ注意 エロなし注意 wiki菅へ 改レス毎に改行お願いします
「阿部さーん こっち終りましたよ」
「おう、本来の仕事じゃないのにスマンな ここいら一帯大発生しているらしくってなぁ」
阿部は伸びをすると黒いビニール袋の口を結んだ。
「しかし、随分捕れましたね これだけ数がいると気持ち悪いなー」
「ここ数日の雨で集まっちゃったんだなぁ 農薬の効きにくい虫らしいから業者に頼むと相当するみたいだし
ま、特に悪さする虫じゃないんだがなぁ」
「ビニール袋はここにおいていいんすか ひーふー うわっ 8袋 半端ねえ」
「あー、それは依頼主さんが片付けてくれるから」
足元に跳ねた一頭を摘み上げて紙の小箱に放り入れた。
「で、何で生きてんの持って帰るんですか さっきも捕まえてましたよね」
「うん、下のは度胸良いんだが上のが理屈っぽい割には腹が据わっていなくてな
足怪我して野球出来ないって暇しているからちょっと刺激をな」
「あれ、息子さん今朝送っていったんですよね」
「なんか具合悪くて帰りに拾って帰れって言われてんだよな
スポーツやるのにひ弱なのはイカンよな」
「程々に・・・・・」
阿部はにっと笑うとガサゴソと音がしている箱をピックアップトラックの助手席にポイと投げ入れた。
<終わり>
月曜の朝っぱらから連投失礼いたしました