いつもと変わらない毎日を繰り返す中での出来事だった。
阿部君が交通事故にあって意識不明の重体だとオレが知らされたのは、深夜二時。
もう夜も遅いのに珍しくお母さんが誰かと長々電話のやり取りをしていて、目が覚めてしまった。
ちょっとだけ寒気と、なんだか気持ちが悪くなって、とりあえずベッドの中から出て、リビングの様子を伺う。
静かな夜の空気の中で聞き取れた言葉の断片。阿部君、事故、病院、意識が戻らない、今夜が峠。
頭の中がぐわぐわと揺れて、ひょっとしたらこれは夢の中なんじゃないかと思った。
だってついさっきまでオレはベッドの中にいて、だからこれはその、夢の続き。悪い夢。
膝から力が抜けてその場に崩れ落ちると、お母さんが悲鳴を上げるのが聞こえた。
「廉! おきてた、の……」
「お、おか、さん……」
フローリングの床が冷たい。お母さんの顔が強張っている。
手に持った受話器から、オレもよく知っている、阿部君のお母さんの声が聞こえてきた。
『三橋さん?』
「あ、ああ、ごめんなさい、息子が起きちゃって……」
片手で受話器を持ったままお母さんに体を起こされて、そのまま背中を押される。
小さな声で、ベッドに戻りなさいって言うのが聞こえた。
ベッドに戻って、寝たら悪夢はもう終わりで、覚めたらいつも通りの朝で、そいで朝練に行ったら阿部君がいて。
同じ毎日が繰り返されるのが当然だと思っていた。
突然終わりを告げた日常は、オレにとって最悪の形で幕を開けた。