いつもと特に変わらない普通の日だったと思う。三橋以外は。
全く何だって言うんだ。意味がわからない。思い返しても腹が立つ。
三橋の言動が意味がわからないのは今に始まったことじゃないが今日は特に突出していた。
オレにだけ。
朝練の前いつもの通りオレはグラ整をしていた。朝もやで辺りがまだ煙っている中、トンボでグラウンドをならしていく。まだ部員は半分近く来ていない。何とはなしにフェンスに目をやると栄口がベンチに入るのが見えた。その後から三橋が続いて入ってきた。
「はよー」
手早くユニフォームに着替えた栄口がグラウンドにやってきた。人当たりのいい笑顔を浮かべ走ってくる。
「おー」
「はよー」
「おす」
トンボの手を休めず挨拶を返す。何故か三橋が栄口の後ろにぴったりと張り付きびくびくしている。
…何だろう。
「どした、三橋ー」
田島が小猿みたいに三橋の背中にダイブした。そのままヘッドロックに移行している。
「た、田島君、おはよ」
三橋はというと苦しそうながらもほっとした笑顔で田島を見ている。何だ。いつもと変わりないな。
オレも何だかほっとして三橋を見ていたんだ。ふっとした瞬間に三橋と目があった。
「お、」
…はよう、と続けようとしたところだった。
「キョエー!!!!!」
絞め殺される鶏みたいな声を出して三橋がオレを見ている。カタカタ身体を震わせ見る間に顔が真っ青になった。断末魔みたいな悲鳴の後、口をパクパクさせ何事か呟くと走り出してしまった。
逆向きに。ベンチの方へ。
栄口が血相を変えて三橋の後を追う。
振り落とされたらしい田島がすごい目をしてオレを見ている。