田島「三橋、右手で隠せ!ホームで挿されっぞ!」

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438たべたいくらい
【※阿部獣化注意   元ネタはキャットピープル】
日曜日、朝から練習があったのに風邪で調子が悪いとウソをついて休んだ。
『…昨日はなんともなかったみたいだけど、本当に風邪だろうな、三橋?』
キャプテンの花井君にはオレのウソなんてお見通しだろうけど、一応急に熱が出たということに
しておく。
体調は悪くない。だけどオレにはどうしても行きたい所がある。
快速電車に2時間揺られ遠くの県まで来たオレは、駅からバスに乗り換えさらに15分かけてよ
うやく目的の場所に着く。
どうしてこんなに遠いんだろう。
この間まで毎日会って一緒に野球して、そしてただのチームイトってだけじゃなくて、オレをそ
の…スキって言ってくれたのに。
それまでは変なことをされても、投手の体調をみているだけだって思ってたからなんだか信じら
れなかったけど、オレも自分が気が付いてなかっただけで、前から好きだったんだってその時わ
かった。
これからもっともっと楽しいことがたくさんあると思ってたのに。
オレにはまだ全然信じられない。
悪い夢でも見ているみたいだ。
だとしたらなんて長くてリアルな夢なんだろう。
道端に落ちている小枝を踏んで小さくぱきんと立つ音や、草刈りでもしたのかうっすらと漂う青
臭い匂いだって現実としか思えない。
やかましいカラスの鳴き声だって。
しかもまわりはすべてフルカラーだ。
夢なら本当にすぐ覚めてほしい。
オレはようやく入口に着き、切符を学割で買って中に入る。
案内板ののお世話にならなくてもすっかり覚えてしまった道筋を辿って、猛獣の檻が連なる一画
へと進んだ。
4番目、5番目、6番目…。
彼らにとって活動する時間ではないので、ほとんどみんなゴロゴロと寝ている。
7番目の檻の前でオレは立ち止った。
スフィンクスみたいなポーズをしていた黒い豹が耳をピクリと動かして、オレを見る。
「…おはよう、阿部君。また練習サボっちゃった…」
黒豹はカーッと大きな赤い口を開けて牙を見せ、オレを威嚇した。