「阿部君!阿部君!」
三橋がオレの元にてけてっと、相変わらず小動物系キャラクターの足音をさせながら、走り寄ってきた。
なんだよ?と返事をすると、三橋はでっかい目をさらにでっかく見開いて、オレにこう言った。
「阿部君、かそ、って、な、んです、かっ?」
「かそ?」
なんだ、かそって。かそ、かそ…?漢字が浮かばないから、意味も浮かばない。
「かそってどんなかそ。漢字は?」
「か、かんじ…」
三橋には難しすぎる質問だろうか。しかし、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすともいうし、ここはオレも三橋の頑張りに任せよう。
えとね、えとね、と、三橋は指先で空中に文字らしきものを書く。
「た、たしか、なんか、すべる、じゃなくて、こ、こう、にょろっとした」
「…それ、しんにょうか?」
「そ、それ!た、たぶん。そ、そんで、しんにょうのうえに」
だめだ、埒が明かない。オレは指先をぐるぐる回している三橋を止めると、携帯を取り出した。かそ、と。
むにむに携帯を打っていると、三橋が横から覗き込んでくる。文字の予想選択に並んだ一覧を見て、こ、これっ、と示した。
「過疎か」
「そ、です。過疎」
ここで、ようやく質問がオレに通じたわけだ。なんてまわりくどい。
「過疎っていうのは、なんつーか、こう、ある場所にあるべきものが、なくなるっつーか」
オレは国語があんまり得意じゃない。過疎の意味はなんとなくわかるが、それを説明するとなるとやっかいだ。
「いっぱいあるべきものが、なくて、スカスカというか…」
「な、なる、ほど!」
三橋がぶんぶんうなずく。ホントにこいつ、わかってんのかよ?
「んで、その過疎がどうしたんだよ?」
それは…と言うと、急に三橋はもじもじし始めた。え、なんだ、よ。
そして三橋は、オレのシャツをきゅっとかわいらしく握ってくると、顔を赤く染めた。
「オレの、大切なトコ、か、かそ、だから、阿部君に、う、うめて、ほしー」
「た、たい、せつ、って」
オレまで三橋のようにどもってしまった。
「こ、ここ、で、す…」
三橋がオレの手を取って、おずおずと尻のほうに持っていく。手のひらに柔らかい尻肉の感触を感じたと同時に、三橋とオレの頭に金のタライがぶつかったのだった。