阿部「俺はいつ、三橋と幸せになれるんですか。」

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323ひよこかくれんぼ
前回まではwiki参照
(wiki管へ。前回の最後から、行をあけずに収録お願いします。あと、スレとスレの間にも一行開けはいりません)

エロなし、日常、ピョア注意


 会話が小さく遠のいていく。小柄だが田島の声は大きいので、どこにいるのかがわかりやす
くていい。大柄な花井も共に話しているはずだが、元気な四番に押されて、どうもかき消され
気味だ。
 とにかく、いまは発見されなかった。そう思ってほっと三橋がため息を吐いたと同時に、す
ぱーんと勢いよくふすまが開いた。
 急に明るくなったせいで、ちかちか目が眩む。肩をすくめてとっさにまぶたをぎゅっと閉じ
たとたん、大音量が三橋を包み込んだ。
「おッわああああッ!」
「ィィィィィィィッ!」
 めったにない相手の叫び声に度肝を抜かれて、三橋も音にならない悲鳴を放つ。庭の木から、
カラスだかなにかの鳥が、バサバサと飛び去っていった。
 恐る恐る三橋は正面の人影を見上げる。
 目の前には、三橋の捕手にして女房にして、最近は母親じみてきた阿部が、通常の三倍ほど
大きく瞳と口を開いて、驚愕した表情のまま固まっていた。
「びっびっびっびっくっ、りしっ」
「あっ、あべっ、くっんっ、ひ、ひふっ」
「おっ、おまっ、ど、どどど、どこにsr0え」
「うっ、おっあっべばぶばqばばおおむbty」
 いつもは冷静沈着で売っている阿部が、こんなに取り乱すのなど三橋は見たことがない。す
ぐに感情が感染するバッテリーの片割れは、つられて取り乱した。おぶおぶ言いながら更に泣
き出す。
 阿部は余程驚いたのか、胸に手を当てて、しばらく息を整えていた。ようやく一息つき、も
う一度三橋に話しかけようとしたところで、別方向から名前を呼ばれる。
「あべー? どうかしたー?」
324ひよこかくれんぼ:2008/02/09(土) 01:18:28
>>323

 一瞬阿部は悩んだ。
 三橋のことが気になるが、たぶんこのふすま泣き男と化した俺らのエースは、泣いている姿
をあまり他人に見せたくないのでは、と感じた。最近みんなの前ですぐ泣くことは、本当に減っ
たもんな、と阿部は思い返す。
 ならば、返事でもなんでもいいから反応を返さないと、気のいい相手はこちらに来てしまう
だろう。
 阿部はふすまの中で声を殺し、いまや号泣している三橋を横目に、部屋から顔だけ出した。
 そんなに俺のビックリ顔は怖かったのかよ!!!!11!! と小一時間ほど問い詰めたく
なる気持ちは、そっと使い古された『投手専用がまん袋』に突っ込んでおく。
 玄関に続く廊下の端に立っているのは、栄口だ。田島たちが去ってから、ほとんど時間は経っ
ていない。
 阿部は呆れてた。
「お前、もう見つかったのか?」
「阿部に言われたくないよ……」
 栄口が苦笑いを零す。
 確かにそうだが、阿部的には見つけられたというより、自分でゲームを終わらせただけなの
で、あまり負けたという意識はない。しかし栄口には知るよしもないことだ。
 栄口がこちらに歩いてくる。阿部は顔だけ出したまま、軸足とは反対の足を伸ばして、ふす
まにひっかけた。そのまま音を立てないように気をつけて、ふすまを閉じる方向にズリズリ引っ
張る。
 傍から見られたら死にたくなるような格好を、俺は取っているんだろうな……。
 などと、冷静な脳裏で考えた。これも投手のためだ。
「お、お前さ、どこにいたんだ?」
「それが、トイレのね」
 え、まじでトイレなのお前? トイレ選んじゃったのお前? という目で阿部が見ているの
にも気付かず、栄口は情けなさそうな顔を作る。
 しかし、阿部は栄口の表情など最早どうでもよかった。なぜか、閉じようとしているふすま
の動きが止められたからだ。
 誰が遮ったかは、見なくてもわかる。しかし、理由がわからない。
 三橋! テメ、俺のめったにない気配りを無駄にする気か!