阿部「三橋!喘ぐのに口押さえるな!」

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140fusianasan
バイオいいかげんパロ
前回分は前スレ259


目の前にいたはずの三橋の姿がぶれて視界から消える。
体が倒れていく感覚に阿部は咄嗟に受身の姿勢を取り、銃の引金に指をかけた。
途端、
「ぐああああああっ!!」
右肩口に走る激痛が脳内を駆け巡る。
目を開けられぬまま夢中で撃った銃弾が相手の体を掠めたらしく、獣のうめきが耳をつんざいた。
痛みに滲む目をこじ開けると、爛れて血が滲んだ皮膚が眼前に迫っていた。
ギリギリと締め付けられる肩が悲鳴をあげそうに痛い。
死んだ魚の目と対照に餌を求めてぎらつく牙が剥き出しになるのを見て、阿部は慌てて自分に馬乗りになる獣を何度も蹴り上げ、激痛が走る右腕で頭を押し返す。
自我どころか感覚すら持たない、ただ肉を貪るだけの獣に生身の体で対抗するのは叶わない。
が、僅かに怯んだ一瞬の隙をつき、銃を構え獣のこめかみに突きつける。
勢いに任せて引金を引く。
パン、と弾けた音を聞いた。
瞬息ののち、力を失い肉塊となった獣がそのまま阿部の体に倒れ込む。
危機から逃れ安堵する暇もなく顔面を圧迫された阿部が酸素を求め息を吸うと、血と肉の腐った臭いが鼻に立ち込め、収まったはずの嘔吐感が込み上げる。
臭いの元は明らかに阿部にのしかかる「人間」だった。
ウイルスの発症後、感染した生物はそのものとしての性質を失う。
ヒトとしての理性、知性はおろか、呼吸や代謝といった身体機能に至るまで。
死んだ肉体を持ちながら、ただ食欲を満たすためだけに生きているかのように動き回る。
それはもはやヒトでも獣でもない。
生きながらにして死ぬ異形のもの―“アンデッド”と呼ぶに相応しかった。