Tama「Get out!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
527博士と助手
*部分的に商業小説のパロディあり

 俺は三代目中村俺衛門(さんだいめなかむらおれ・えもん)。科学者であり、専門はエロティクス(官能工学)だ。
 財団法人オレラーノ・エロティクスに所属し、O・シッコ博士の助手を務めている。
 背が低くて水平方向にチャレンジした肥満体を誇り、しかも短小包茎である俺は絵に描いたようなキモデブだ。
 学歴も褒められたものではない。三流私大をギリギリの成績で卒業。学歴ランクでは最底辺だろう。
 そんな俺が、エロティクスの第一人者であるシッコ博士の、ただ一人の助手として用いられているのは、
 ひとえに、エロティクスの研究者に求められる資質において俺が他の追随を許さないからなのだ。

「俺くん。例のエンジンの件だが」
 部屋に入ってくるなり、博士が切り出してきた。
 俺の名字は、正しくは三代目中村俺なのだが、長ったらしいので縮めて俺と呼ばれることが殆どだ。
 側頭部を残して綺麗に禿げ上がった頭をキラリと輝かせ、博士は嬉しそうに口元を綻ばせた。
「コアユニットに目星がついたよ」
「えっ、本当ですか! いやー、よかったですね」

 数年前より博士は、新型の動力エンジン開発計画に取り組んでいる。
 自然界のエネルギーに拠らず、動力を生み出す。それがエロティクスに求められる成果なのだ。
 基礎理論とエンジン設計は出来上がっていた。
 さらには、世間に発表こそしていないが、プロトエンジンも完成一歩手前なのだ。
 残された問題は、基本動力を生み出す生体コアユニットだった。
 官能工学の訳語が示す通り、エロティクスは生物が感覚器官を通して取得する快感、それも性的感覚を科学的に取り扱う学問だ。
 もっと大雑把にいえば、性的なあれこれをエネルギーの一種として利用する――それがエロティクスなのである。

 O・シッコ博士は、人間の性欲に注目し、これに関する研究で業績をあげている。
 そして今、俺と博士が話題にしている新型エンジンの生体コアユニットには、
 人間の、それも未成年の男子が最適であるという結論が下されていた。
 コアユニットに目星がついたということは、つまり適格者たる少年が見つかったということなのだった。

「して、博士。そのコアユニットは」
「先ほど確保した。直ぐにも君に見てもらおうと思ってね」
 博士に従い、俺は廊下に出る。抑えがたい興奮が、俺の体を震わせていた。