<人物一覧> ・三橋→少納言家の息子。性別を偽り更衣として入内。女御らにいじめられている。
・西広→今上帝。賢帝だが、後宮の女御たちの覇権争いに辟易している。
・栄口→廉の乳母兄弟で世話係。 ・沖→和歌や手習いで噂に名高い廉の教師。
・田島→今をときめく出世株の一人で近衛中将。武に長ける。武より文を重んじる帝の方針に不満がある。
・阿部→今をときめく出世株の一人で宰相中将。文に長ける。梨壷の女御を娶ろうとしていた過去あり。
・泉→梨壷の女御の兄で今は皇籍を離れて源氏姓を名乗っている。
・水谷→右大臣家の嫡男で弘徽殿の女御の実弟。色恋にふしだらである。
前スレ
>>285,298,309,315,322 (平安パラレル注意)
上達部や殿上人の宮中での出仕は多くの場合午前中で終わる。
朝儀の席で、大臣(おとど)たちから次々と述べられる人事や財務への勅令を下し、
ようやく一息つくことの出来た西広の帝は、玉座においても残務処理に追われながら、つい彼の姫に思いを馳せてしまう。
少納言に無理を言って入内させてからもう七日ばかりがたつ。
不慣れな宮中生活において、廉姫はどれほど心細い思いをしているだろうか。
女御やその後見貴族の手前もあり、すぐにでも呼び寄せたい気持ちを抑え、その機を伺う自分が情けなくもあった。
そんな物思いにふけっていると、一人の女房がそっと、薄紅に色づく蕾が美しい桜の枝に結び付けられた文を献上する。
「桐壷の御方様からでございます。」
「廉姫からかい?」
通常女人の方から先立って文を送ることは珍しいとされていたので、驚きはするものの、思い巡らせていた
姫からの文を、匂い立つ桜木からほどいて和紙を開いてゆく。
そこには、挨拶と感謝の礼と共に、墨の走り方から緊張が伝わってくるような歌が添えられていた。