882 :
雨の病:
雨の世界。陰鬱とした曇天、薄暗い街並み、降りしきる雨。
誰一人として歩く姿のない別世界のような住宅地をただただ俺は目的地に向かって進む。
ポツンポツポツン。チープなビニール傘に大粒の雨が落ちては不調和なリズムを刻み、逸る気持ちを少々落ちつくせてくれたりもした。
ローファーの中に水が染み込み、独特の不快さと冷たさによって悴む足の指先に眉間に皺を刻む頃に、やっと学校からあの家の前まで辿り着いた。
すでに見慣れた広大な敷地にあるこの屋敷。この中にアイツはいつもどおり居るのだろう。
一度深呼吸をし、姿勢を正した俺はインターホンへ手を伸ばした。
屋敷の使用人に通された彼の部屋。
相変わらず物の少ない部屋だなと思いながら、奥に配置されたベッドへ足を運ぶ。
「レ〜ン。来たぞ」
シンプルな木製のベッドの上の塊に向かって声を掛ければ、それはモソッと緩慢な動きで被さっていた布団から顔を出す。
ボサボサの色素の薄い髪に耳まで赤くなった顔、潤んだ瞳。
この状態を見れば誰だって風邪だと思うだろう。だが違う。もし風邪だったら医者でもない、ただの幼馴染の俺の出る幕はないはずだ。
「大丈夫か?」
「うん」
朱を差した柔らかい頬に手を伸ばせば、じわりと熱が指先を侵す。そしてその熱は次第に腕、胸、腹を通り、体全体をも飲み込み、俺の感情にまでも熱を帯びさせる。
不思議な病気だ。
そう思いつつ布団を剥ぎ取り、レンの前に乗り上げる。シーツまでもが酷く暑い。俺は彼を怯えさせないよう、ゆっくりと出来るだけ優しいした口調で問いかけた。
「今日は、どうしたい?」
彼は残る理性の戦っているのだろう、小さく首を振ってあの治療法を拒否する素振りを見せるが、残念ながら体は素直に答えを示していた。
大き目のシャツの裾。それに隠された彼の股間の部分が膨れ上がり、先を微かに濡らしている。
―雨の日はいつもこうだ
中学入学と同時に俺はレンのじいちゃんからある1つの願いをされた。雨の日、休んでいる彼のことを手伝ってやってはくれまいか。
最初は意味が分からなかった。雨の日ぐらいで休むなんておかしいし、手伝うってそれほど宿題とかでてないし。
理由が分かったのはそれからすぐ、雨が降った日のことだった。体に溜まる熱を解放できずに苦しむ彼と俗に言うイケナイことをしたのは。
レンのじいちゃんも家族の誰も原因は分からないという。医者に見せてもわからないといわれ困り果て、家族で相談した結果、処置法として白羽の矢が立ったのはレンの幼馴染である俺だという。
正直にな話。身内の誰かがやればいいじゃないかと思った。三橋(ルリ)とかリュウはさすがに駄目だろうけど…
地元の有権者である三橋家の内情は想像以上に混沌としたものだったのだろう。
俺は自分の家まで危害を及ぼせるのはゴメンだったから、あえて深くは探らず雨の日はただただレンの世話をした。
不思議と最初は嫌悪感(さすがに同性の自慰を手伝うのは誰だって嫌だからな)まみれだったコレも、回数を重ね、レンの表情や動きに愛おしさを感じる事が増えた。
あきた