384スレが間近い。
三橋に何か贈ろうと、俺は考えた。
祝いの場で渡すに越したことはないが、恐らくそうは行かないだろう。
今なら手渡しができる。
俺は、中村とビリーと三人で連れ立って、日本へ向かった。
頑丈なケースの中で、一対のリングが綺羅を撒いていた。
38.4ctダイアモンド・リングのペア。
一つは無色透明のスタンダード・ダイヤ。、
もう一つはカナリア・イエロー。これは三橋の髪になぞらえている。
鑑定書は、世界的に権威のある機関が発行したものだ。
「小さな国が幾つか買えるな」
鑑定の真似事をしながら、ビリーがいう。
「当初は384ctのダイヤにすると、仰ってましてね」
「ヒュー! マジかよ」
中村の冷ややかな声に、ビリーがおどけてみせる。
それには構わず、俺はリムジンの窓から外を眺めていた。
三橋の手を取り、その指にリングを滑らせる場面を夢想しながら。
三橋がその指輪を着けていたのは、ほんの少しの間だけで、
直ぐに外して母親に預けてしまったという。
母親が使うでもなく、二つの指輪は大切に仕舞われているという。
「アクセサリは陽の目を見てナンボだよなあ」
土産にと大量に買い込んだ焼き饅頭を作りながら、ビリーがいう。
ホテルの室内に、香ばしい匂いが充満する。
俺は窓際に座り、新聞を広げて黙っている。
中村が、そっと焼き饅頭の乗った皿を差し出してきた。
一つ掴んで噛み締める。
ミソの利いた素朴な味が口いっぱいに広がる。
「三橋の味がする」
思わず呟くと、ビリーと中村がハッとしたようにこちらを見た。
気まずさに耐えかねて、俺は新聞で顔を隠した。